人生を豊かにする芸術作品⑬『線は、僕を描く』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

 

第十三弾となる今回は、映画『線は、僕を描く』(2022年)です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)
第八弾:映画『gifte/ギフテッド』(ココをクリック)
第九弾:映画『あの夏のルカ』(ココをクリック)
第十弾:映画『フリー・ガイ』(ココをクリック)
第十一弾:映画『ドラえもん のび太とアニマル惑星』(ココをクリック)
第十二弾:映画『ロスバンド』(ココをクリック)

 

映画『線は、僕を描く』とは?

映画『線は、僕を描く』は、水墨画を題材にした砥上裕將による同名小説の映画化で、製作は青春映画の大傑作である『ちはやふる』シリーズの小泉徳宏監督を始めとするスタッフが再集結して担当しています。

私個人的には、原作小説の存在は知りませんでしたが、とにかく映画『ちはやふる』シリーズが大好きで、今回この映画を見ようと思ったのも、『ちはやふる』シリーズの監督や製作陣による映画だったという部分が大きいです。

そして、今作も『ちはやふる』同様、個人的に大好きな映画でした。

 

あらすじ(公式サイトより)

大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で運命の出会いを果たす。白と黒だけで表現された【水墨画】が霜介の前に色鮮やかに拡がる。深い悲しみに包まれていた霜介の世界が、変わる。
巨匠・篠田湖山に声をかけられ【水墨画】を学び始める霜介。【水墨画】は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術。描くのは「命」。霜介は初めての【水墨画】に戸惑いながらもその世界に魅了されていく――。

 

映画『線は、僕を描く』の見どころ

圧巻の水墨画シーン

まずは、何よりも登場人物たちが水墨画を描くシーンが格好良く描かれているところです。『ちはやふる』でもカルタの試合シーンがとても格好良く描かれていましたが、今作の水墨画のシーンも素晴らしいです。共通して言えることは映像と音楽がバッチリ嚙み合っていて、見ていて心躍るような体験ができることです。ちなみに主演の横浜流星はこの映画のために1年以上水墨画を特訓して、撮影に臨んだとのことです。また、パンフレットを読むと、他の役者さんたちもかなりの量練習したようで、その一部の作品が劇中にも多く使われているようです。

映画内でも水墨画のド素人である主人公が、水墨画を始めてから圧倒的な努力を重ねる描写がありました。特に素人の主人公が何かに打ち込むストーリーの場合、こういったシーンがあると、その後の主人公の才能の開花ぶりにも説得力が出るので、非常に良かったです。

さらに、『ちはやふる』では、カルタの試合中に主人公チームのメンバーの動き(上の句が読まれる寸前に一斉に腰上げる動き)に一体感があって、それが見ていて心地よかったです。そして、この映画内でも登場人物たちが水墨画を書き始める際に目をつむって息を整えるという特有の動作があり、それは見ていて心地よさを覚えます(ストーリー的にも主人公がその動作をすることで、師匠と真の師弟関係になったことがわかる)。

 

魅力的な登場人物

メインの登場人物4人はみんな良いです。

主人公の霜介(横浜流星)。実は過去に大きなトラウマを抱えており、いまだにそれを引きずっていて、何事にも前向きに取り組むことが出来ずにいました。しかし、そんなある日に運命的に水墨画に出会い、その魅力にどんどん引き込まれます。また、彼が過去のトラウマに向き合って克服することがこの映画のストーリー的には大きなテーマになっています。

 

霜介の師匠であり、水墨画の巨匠である篠田湖山(三浦友和)。霜介を一目見て、彼の中にある可能性を感じて弟子に誘います。決して口数が多いキャラクターではないですが、彼の一言一言には温かみがあり、映画の後半での彼のセリフには何度も泣かされました。

 

湖山の孫であり、新進気鋭の水墨画家の篠田千瑛(清原果那)。自分自身が湖山から水墨画を満足に教えてもらえない中で、急に湖山の弟子となった霜介に対して、嫉妬心に近いライバル心を抱きます。彼女は、去年の賞コンテストで審査員から酷評されて以来、納得のいく水墨画が描けず、完全にスランプに陥っていました。そんな中、霜介との出会いをきっかけに、「自分らしい線」とは何かということに向き合います。

 

湖山の一番弟子であり、霜介や千瑛たちの兄貴分的な存在の西濱湖峰(江口洋介)。普段は湖山の家で身のまわりの世話などをしていますが、一番弟子というだけあって水墨画に造詣が深いです。性格的に荒々しい部分がありますが、根は優しくて、霜介や千瑛を様々な面でサポートしています。個人的には、この西濱湖峰が一番好きなキャラクターです。はっきり言って江口洋介のベストアクトだと思います!

 

他にも、主人公・霜介の大学の同級生である古前と川岸や、元々は湖山に並ぶ巨匠で今は水墨画評論家の女性・翠山もなかなか良いキャラクターです。

 

良いセリフ

劇中に良いセリフがたくさんあります。特に主人公・霜介に対するセリフは、霜介に感情移入して見ている我々に投げかけられていると思えるので、よりエモーショナルに感じます。以下、印象的なセリフです。

「できるかできないかじゃない。やるかやらないかだよ」(湖山)

「何かになるんじゃなくて、何かに変わっていくもんかもね」(湖峰)

「そろそろ前に進むときだろ」(古前)

余談ですが、↑の湖山のセリフは、私が会社員時代の新人のときに当時の上司に全く同じセリフを言われたのを思い出して、ドキッとしました。

 

テーマとメッセージ

先にも述べた通り、「過去のトラウマを克服して、未来に向けて新たな一歩を踏み出すこと」です。その中で、「生と死」が大きなテーマとして掲げられています。それは、霜介の過去のトラウマ、登場人物の一人の身に起こることのほか、食料の調達の仕方や食事の場面での登場人物たちの動作などでもこのテーマを連想させるシーンが多くあります。食の裏側には命があるということです。

 

画面作り

とにかく光を上手く使った画面作りが印象的です。本当に音楽と光の使い方が素晴らしい映画だなと見ていてずっと感心していました。

また、劇場で2回目に見たときには、画面の中の色に注目すると青やネイビーを基調とした画面作りが徹底されていることに気づきました。何気ない小道具や登場人物たちの服装など、至るところに青・ネイビーが使われていました。もし二度目以降に見返す場合は注目してみてください。

 

(多少ネタバレあり)主人公たちの成長

タイトルにもある通り、技術云々とは別に水墨画の線はその人自身を表しています。そして、その人らしさが感じられる線こそ「良い線」なのです。逆に言うと、人を真似て描いたのでは「良い線」ではないし(劇中では「悪くはない」と表現されています。)、心の中に迷いのある人が描く線にはやはり迷いがあります。

霜介は過去のトラウマと向き合うこと、千瑛は身近な人の生死を目の前にすることで、自分自身と向き合い、心の中の迷いをなくしていきます。それによって、二人は「良い線」の水墨画を描くことができるようになります。

また、主人公が過去のトラウマを乗り越えるときに、場面としては時間帯が夜から朝になります。つまり、過去のトラウマによって立ち止まっていた主人公にも夜明けが訪れて、そこからまた前に進みだすことができるということを示しています。

映画『ちはやふる』シリーズ同様、この映画も超絶オススメです!

パンフレットも良かったです!

今回は以上です。ではまた。

 

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人生を豊かにする芸術作品⑫『ロスバンド』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第十二弾となる今回は、映画『ロスバンド』(2022年)です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)
第八弾:映画『gifte/ギフテッド』(ココをクリック)
第九弾:映画『あの夏のルカ』(ココをクリック)
第十弾:映画『フリー・ガイ』(ココをクリック)
第十一弾:映画『ドラえもん のび太とアニマル惑星』(ココをクリック)

 

映画『ロスバンド』とは?

『ロスバンド』は、それぞれが悩みを抱える4名の少年・少女が主人公にしたノルウェー発の青春映画です。タイトルの通り、主人公たちはロックバンドとしてノルウェーロック大会の決勝に出場するために、地元から遠く離れた町・トロムソにキャンピングカーで向かう、いわゆるロードムービーです。

ノルウェー本国では2018年に公開されたようですが、日本では今年の2月に公開され、その際に文部科学省選定作品になっているだけあって、老若男女問わず全方位的におススメできる心温まる作品だと思います。

 

あらすじ(公式HPより)

ドラム担当のグリムと、親友でギター兼ボーカルのアクセルはノルウェーのロック大会に出るために練習に励む毎日。グリムはアクセルの音痴が気になってしかたがない。真実を言い出せないまま、念願の大会出場のチケットを手に入れたものの、ベースもいなければ、開催地は遥か北の果ての町・トロムソ。ベーシストのオーディションにやってきた9歳のチェロ少女のティルダを仲間に入れて「ロスバンド」を結成し、近所に住む名ドライバーのマッティンの運転で長旅のドライブに出かけるが……。果たして4人はトロムソに無事たどり着いて、ロック大会で演奏することができるのか。

 

魅力的な主人公4人

この映画では、それぞれに別々の悩みを抱える4人の少年・少女が主人公です。彼ら・彼女らがみんな魅力的で、それがこの映画の素晴らしい点の1つです。

1人目は、両親の不仲に悩んでいる、バンド「ロスバンド・イモターレ」のドラム担当のグリム。小さいころに初めて両親と行ったライブの際に、当時のノルウェーで最高のドラマーと写真を撮ってもらい、「夢を追い続けろ(Follow your dream)!」というメッセージをもらって以来、バンドのドラマーとして相棒のアクセルと一緒にノルウェー・ロック大会への出場を目指して頑張ってきました。この健気な彼の姿は良いです。

 

2人目は、恋に悩んでいる、バンド「ロスバンド・イモターレ」のギター兼ボーカル担当のアクセル。学校のアイドル的存在のリンダに恋をしているが、全く自分に振り向いてもらえず、かなりこじらせています。また、グリムの相棒でギターの腕前はピカイチですが、歌が致命的に下手クソで本人はそのことに気が付いておらず、グリムもそれを指摘できずにいました。ちなみにデモテープを作る際には、グリムが音楽ソフトでアクセルの歌の音程を補正していました。個人的に感心したのは、このアクセルが最初に出てきてグリムと会話をする場面で、セリフの言い回しを聞いた時点で「あ、コイツは確実に歌が下手だな。」と観客にわかるところです。

 

3人目は、家では両親に放っておかれていて、学校でも友達が1人もいない、9歳のティルダ。そんな日常から抜け出すために「ロスバンド・イモターレ」のベーシストオーディションに参加し、唯一の参加者であったがチェロの腕前は相当なものだったため合格し、バンド入りする。個人的には、この映画で最も魅力的な役が、このティルダです。年齢の割にませた感じの役ですが、時折見せる年齢相応の表情が素敵です。また、バンドのメンバーと時間を共にするうちに、「自分の居場所はここなんだ」と気づくところも良いです。

 

4人目は、父親が経営する板金屋さんで働きつつ、父親にラリードライバーとしての指導を受けているマッティン。実はマッティンは、この春にロンドンの音楽専門学校に合格していて、本当はそこに通って音楽の道に進みたがっていましたが、「音楽で食えるはずがない」という父親の鶴の一声で、進学を断念していました。父親の前では「音楽を諦めた」と言っているものの、彼の心には音楽への強い思いがまだあったのでした。ロスバンドには、会場までバンドメンバーを連れて行くキャンピングカーの運転手として参加します。バンドメンバーの兄貴分的な存在で、事あるごとに他のメンバーを気づかうナイスガイです。

 

劇中の音楽とノルウェーの風景が良い。

音楽映画ということで、劇中に流れる曲がどれも良いです。メインテーマやバンドが大会で演奏する歌もそうですし、キャンピングカーで会場に向かう道中に流れる歌も素晴らしいです。私は鑑賞後にパンフレットやYou Tubeを駆使して曲名やアーティスト名を調べて、数曲ダウンロードしました。

また、この映画はノルウェーを南から北へ縦断するロードムービーということで、様々なノルウェーの風景が印象的に映ります。ノルウェーに対する知識がない中でも、その雄大さや美しさには圧倒されます。

 

青春映画としての良さ

この『ロスバンド』は主人公4人の成長を描いた青春映画として傑作です。この映画では、彼ら・彼女らの人生を決定的に変えるような大きな出来事は起きませんし、ストーリー自体に大きなひねりやどんでん返しはありません。それこそ、彼ら・彼女らがキャンピングカーでノルウェーロック大会の会場となる町を目指しているように、映画として(これはいい意味で)物語のゴールは予め決まっているような作品ともいえます(だからそこ安心して見られる良さはあるでしょう)。これは映画として大きな起伏がないと言うだけであって、つまらないということでは決してなく、映画の中で愛おしく思えるシーンは本当にたくさんあります

ただし、その道中において、それぞれ悩みを抱えていた4人が、時に壁にぶつかり、時に仲間に支えられながら、自分の進むべき道を決めます。このストレートでわかりやすいストーリー展開も、青春映画として良いところだと思うし、だからこそ見終わった後の爽快感を覚えるのかもしれません。

また映画を見終わった後に「またアイツら(=4人のメンバー)に会いたいな」と心から思えます。個人的にこう思えるかどうかは、青春映画というジャンルの中では、それが良い作品か否かを分ける大きなポイントだと思います。

 

映画『ロスバンド』のメッセージとは?

この映画は、「自分の道は自分で決めろ。」「好きなことをとことん突きつめろ。」ということです。これは、ノルウェーロック大会でロスバンド・イモターレが演奏する曲名が「Walk Your Own Way(=自分自身の道を歩め)」であることからも明らかです。

このような「好き」を突きつめることの大切さがメッセージの作品と言えば、同じく今年公開された さかなクン の半自伝映画である「さかなのこ」も同じですね(「さかなのこ」では、その危うさも同時に提示していましたが)。

映画『ロスバンド』は現在、黄金町近くの映画館・シネマジャック&ベティで10月21日(金)まで公開中です。できれば劇場で見てほしいですが、今年の年末や来年の始めにはブルーレイやDVDなどのソフト販売、または各種サイトで配信もされると思います。なので、是非ご覧ください。

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人生を豊かにする芸術作品⑪『ドラえもん のび太とアニマル惑星』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第十一弾となる今回は、映画『ドラえもん  のび太とアニマル惑星(プラネット)』(1990年)です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)
第八弾:映画『gifte/ギフテッド』(ココをクリック)
第九弾:映画『あの夏のルカ』(ココをクリック)
第十弾:映画『フリー・ガイ』(ココをクリック)

 

映画『ドラえもん のび太とアニマル惑星』とは?

この作品は、いわゆるドラえもんの第一期(大山のぶ代を始めとする旧声優陣の頃の作品)の映画シリーズの11作目にあたる1990年の作品です。

取り上げているテーマが、「人間による環境破壊」「行き過ぎた人間文明への警鐘」などと言ったもので、かなり社会派な内容となっています

また、物語のメインの舞台になっているアニマル惑星(プラネット)の近くにある地獄星は核戦争によって荒廃した星という設定になっています。

他のドラえもんの映画版作品では、このような重いテーマを扱うにしても、もう少しさりげなく盛り込むようにしていますが、この作品はテーマの打ち出し方が大胆過ぎて、正直説教臭いです。

というのも映画内では、のび太の通う学校の裏庭にゴルフ場が建設されるという話が持ち上がり、それを機会に環境問題について急に勉強し始めたのび太のママが、のび太やドラえもんに対して資源の無駄遣いを説教する場面が唐突に入ります。ここだけは、それまでの明らかにトーンが異なり、流れる映像や音楽も少しシリアスです。

この演出に関しては、原作者で今作の脚本も担当している藤子・F・不二雄さん自身もコミック版のあとがきで「少し露骨だったかもしれない」と語っているほどです。ちなみに私はこのあとがきを見たくて、アマゾンで注文したのですが、それが新装版だったらしく、藤子・F・不二雄さんによるあとがきは載っていませんでした…(なんでカットした!涙)。

ただし、そういった少々説教臭い部分に目をつむれば、とても魅力的な作品で、実際に今作は当時のドラえもんの映画シリーズの中では前年の『ドラえもん のび太の日本誕生』(←これも名作!)に次ぐ歴代2位のヒット作品となりました。

 

あらすじ(テレビ朝日のHPより)

ある晩、のび太はピンクのもやを見つける。その中を入っていくと、2本足で人間のように暮らす動物たちがいた。さっそくしずかとドラえもんを連れて夢の正体を探りに行くことに…。

再びピンクのもやの中へ入った3人は、チッポという犬の少年に出会い、町を案内してもらう。
そこはいろいろな動物たちが、公害のない文明の中で平和に暮らしているアニマル惑星だったのだ。

さらにチッポたちの先祖たちは昔は月に住んでいて、悪魔ニムゲにいじめられたために、星の船でやってきた神様に、光の階段でこの星に導かれたのだという。光の階段は、どこでもドアみたいなあのピンクのもやのことじゃないか?それが偶然地球につながったんじゃないかな?」とドラえもんは思いつく。

ピンクのもやを通っていったん地球にもどったみんなは、すぐにチッポからSOSのメッセージを受け取る。宇宙救命ボートでさっそく動物の国へ行ったが、もうすでにニムゲの軍隊にあとかたもなく破壊されていた。

ニムゲはこの美しいアニマル惑星を征服しようとしているのだ。運がよくなるツキの月を飲み込んだのび太はチッポのいとこのロミを助け出すが、ニムゲの軍隊はどんどん増えてきて、ひみつ道具だけでは戦えそうにない!果たしてドラえもんたちはアニマル惑星を救うことができるのか?

 

映画『ドラえもん のび太とアニマル惑星』の見どころは?

見どころ1「理想の惑星・アニマル惑星」

今回、物語のメインは動物が独自の進化を遂げている惑星・アニマル惑星です。このアニマル惑星は、藤子・F・不二雄さんの考える理想が描かれているように思います。

発電には、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが主に使われていて、高度な汚水処理装置、水と光と空気から食べ物を製造する技術などが発達しています。これらをドラえもんは「22世紀の地球よりも科学技術が発達している」と言います。

また、アニマル惑星には国という概念がなく、動物たちがそれぞれを尊重し合って過ごしていて、動物たちの信じる神話的な経典によって兵器の開発の開発が禁止されているので戦争がなく平和が保たれています。

また、まさに今日的なテーマといえる「多様性」に関しても感じ取れます。メインの登場人物のチッポという犬少年は、のび太やドラえもんが見た目的にアニマル惑星の動物ではないことを知りながらも、積極的に友達になろうとします。

 

見どころ2「映画的演出と遊び心」

今作には映画的といえる良い演出がいくつかあります。例えば、のび太がアニマル惑星から持ち帰った星の花(←アニマル惑星にしか生えていない植物)がある日枯れていることにのび太は気づきます。それは、その直後に平和だったアニマル惑星が異星人に襲われる展開を暗示しています。

この他、まさに藤子・F・不二雄的と言える遊び心もこの作品の大きな魅力です。動物の世界が舞台ということで、「迷子の子猫を助ける犬のおまわりさん」や「黒ヤギさんの手紙を食べてしまった白ヤギ」などの有名な童謡を模した場面や、ドラえもんに関するしつこいほどのタヌキネタなどがあります(最終的にドラえもんが「タヌキさんでいいよ…。」と妥協する流れは珍しいですが)。

 

(多少ネタバレ有)映画『ドラえもん のび太とアニマル惑星』のメッセージは?

すでに述べた通り、この作品の持つ「人間による環境破壊」「行き過ぎた科学技術への警鐘」などのテーマはかなり露骨で説教臭い内容です。むしろ露骨すぎて物語進行とのバランスがちょっと悪いと感じるくらいです。

ちなみに同じようなテーマを扱いながら、そのへんのバランスにかなり気を遣った作品が1992年の『ドラえもん のび太と雲の王国』だと思います。こちらは私個人的にはドラえもんの大長編では最も好きな作品の一つです。

のび太たちはアニマル惑星から地球に戻るときの別れ際に「愚かな人間たちも少しずつ意識や行動を変えていき、地球が少しでもアニマル惑星のような星に近づけるように頑張っていこう」と思い立ちます。

そして、地球に戻った後にのび太たちは、のび太のママが近隣住民たち一緒に参加したゴルフ場建設に対する反対運動が実を結び、計画が白紙になったことを知ります。

ここから感じられるメッセージとしては、「人間、何かを学ぶのに遅すぎることはない」「たとえ小さな行動でもそれが積み重なったり、広がることで大きな成果をもたらす」ということでしょう。

もう30年も前の作品ですから、ところどころに時代を感じさせるようなセリフや描写も多いですが、一方で残念ながら(?)現代にも通じる部分も多い作品と言えます。

今なら、ドラえもんの過去の大長編がすべてアマゾンプライムビデオで見られるので、ぜひどうぞ!

 

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人生を豊かにする芸術作品⑩『フリー・ガイ』

こんにちには、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第十弾となる今回は、映画『フリー・ガイ』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)
第八弾:映画『gifte/ギフテッド』(ココをクリック)
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映画『フリー・ガイ』とは?

この作品は、マーベルを代表する大ヒット映画『デッドプール』の主演で知られるライアン・レイノルズが主演と製作を務めた2021年の映画です。

舞台は、「グランド・セフト・オート(GTA)」などに代表される、プレイヤーがゲーム内で何でも好きなことができるオープンワールド型のゲーム「フリー・シティ」で、ライアン・レイノルズ演じる主人公・ガイはゲーム内で毎回銀行強盗に襲われる銀行員です。彼のゲーム内での役割はただ強盗に襲われるだけで、時にはプレイヤーたちによって殺されたり、ボコボコにされたりします。

このようにゲームの中で限定的な役割やセリフを与えられた、いわゆるモブキャラ(背景キャラ)が主人公となっているのがこの作品のユニークな点です。ちなみに↓みたいのが典型的なモブキャラです。

 

 

あらすじ

ルール無用のオンライン参加型アクション・ゲーム「フリー・シティ」のモブ(背景)キャラとして、平凡で退屈な毎日を繰り返すガイ。ある日、彼は街で見かけたきれいな女性プレイヤー(モロトフ・ガール)に一目惚れして、そこから意思を持ち始める。それから、今までは毎日繰り返してきたこととは違う新しいことをやってみようと思う。しかし、このモロトフ・ガールは、ゲーム「フリー・シティ」に隠された大きな秘密を暴こうとしていて、ガイはモロトフ・ガールに協力することになるが、その中で自分の住む世界はどんなものなのか、そして自分は何者なのかを知っていく。

公式キャッチコピー
「主人公(ヒーロー)になりたい、すべてのただの人(フリー・ガイ)へ」

 

映画『フリー・ガイ』の見どころは?

見どころ1「よく出来た脚本・ストーリー」

最初はガイの生きるゲーム世界の描写が中心ですが、物語が進んでいくうちにそのゲーム開発の裏側や開発者が込めた思いなどが段々とわかるような謎解き要素もあって、最後まで退屈せずに見ることができます

また、序盤の細かいセリフや動きが後半で大きく活かされる、いわゆる上手い伏線の張り方も多いため、何度でも見返したくなります(ゲーム世界のシーンでは画面の情報量が多いので、細かい部分やネタに関しても見返して確認したくなります)

 

見どころ2「魅力的なモブキャラたち」

この作品では、ガイ以外にも「フリー・シティ」内のモブキャラたちが多く出てきます。最初は、ガイ同様に決まったセリフや動きしかしないのですが、ガイが意思を持ち始めたのをきっかけに、他のモブキャラたちも少しずつ意思を持ち始めます。その過程を見ているうちに、我々は段々とガイ以外のモブキャラたちにも感情移入していき、「彼らに幸せになってほしい」と思うようになります

そして、このモブキャラたちの変化は映画のストーリー上、大きなポイントとなっています。

 

見どころ3「軽妙な会話やギャグ」

すでに紹介したように、この作品では主演のライアン・レイノルズは今回製作も兼ねています。彼の出世作でもある『デッドプール』同様、彼のアイディアやアドリブはこの作品でも炸裂して、思わずクスリと笑えるシーンやセリフがたくさんあります

また、吹き替え版では主人公のガイの声をデッドプールと同じく加瀬康之さんが務めているのも個人的には安心して見れます。加瀬康之さんは、ライアン・レイノルズ以外にもレオナルド・ディカプリオやクリス・エヴァンスなどの吹き替えも多く担当されています。

 

(多少ネタばれ有)『フリー・ガイ』のざっくりとした結末

ゲーム「フリー・シティ」の開発会社であるスナミ・スタジオの経営者であるアントワンは、実はこの「フリー・シティ」開発の際に、キーズとミリーという若手クリエイターが作ったゲームのコードを盗用していました。キーズはアントワンの会社で雇われる一方で、ミリーはアントワンを裁判に訴えており、盗用の証拠を得るために「フリー・シティ」をプレイしていました。実はガイが一目惚れしたモロトフ・ガールは、ミリーがプレイしているキャラクターなのでした。

ガイは、自分が住む世界が実はゲーム内のものであること、そして自分自身がそのゲームの単なるモブキャラであることを知ります。しかし、キーズがプログラムしたAIによって意思を持ち始めたことで、自分を変えること(=自分が主人公となること)、そしてミリーの動きに協力することを決めます。これに対して、アントワンは社員に命じて何とか二人の動きを阻止しようとします。

そこで、自分たちだけでは盗用の証拠を手に入れることが難しいと考えたガイは、他のモブキャラたちに協力を求めます。中には、ガイ同様に意思を持ち始めたモブキャラもいて、二人はみんなの協力を得ることができます。

しかし、盗用の証拠を得るまであと一歩というところで、アントワンはミリーがプレイするキャラクターであるモロトフ・ガールをゲーム内から追放することに成功します。そうなると、ガイは一人でやり遂げなければなりません。さらにそこに投入されたのは、アントワンが急造で完成させた最強キャラ・デュード(←筋肉ムキムキでいかにも強そうなキャラ)です。

ガイは、圧倒的な力の差がある中で、親友のモブキャラ・バディの助けや一瞬の機転を利かせることでデュードとの戦いに何とか勝つことができます。

これを受けて、アントワンは最終手段として、社内にある「フリー・シティ」のサーバーを物理的に破壊することで、ゲーム自体を破壊しようとしますが、キーズやその同僚・マウサーの助けもあって間一髪で何とか盗用の証拠を得ること、そしてそれを世間に公表することに成功したのでした。

ミリーとキーズ、ガイとモブキャラたち、そして悪事がバレたアントワンのその後については、映画を実際にご覧ください。

 

映画『フリー・ガイ』のメッセージは?

この映画でのガイに代表されるモブキャラとは、我々の現実世界における一部の「主人公やヒーロー」を除く大半の「ただの人」のことを投影していて、そんな「ただの人」でもそれぞれが自分の人生の主人公であり、何かをきっかけにしていつでも新しいことを始めたり、自分を変えたりすることができる、というのがこの映画のメッセージだと思います。

もちろん、我々の大半は「ただの人」であるので、このメッセージには多くの人が共感できるでしょうし、この映画を見た後に人生に対して前向きな気持ちになれると思います。

ガイは、自分の意思を持ってからはただ決められた役割を演じたり、決まったセリフを言うのではなく、自分がやりたいこと(=人助け)をやり始めます。このように、「自分の人生なのだから自分のやりたいことをやろう」という思いにもさせてくれる良い映画です。ぜひご覧ください。

 

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人生を豊かにする芸術作品⑨『あの夏のルカ』

こんにちには、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第九弾となる今回は、みんな大好きなピクサー映画の『あの夏のルカ』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)
第八弾:映画『gifte/ギフテッド』(ココをクリック)

 

コロナ禍のピクサー作品への影響

2020年からの新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、ピクサー作品の公開も大きな影響を受けました。まず2020年3月に日本公開予定だった『2分の1の魔法』は公開が延期となり、その後2020年8月に公開しました(アメリカでは同年3月公開)。

また、その次の『ソウルフルワールド』と今作『あの日のルカ』の2作品は、劇場公開自体が見送られ、ディズニー+での配信公開となりました。この2作品とも間違いなく傑作ですし、ピクサー作品は作品ごとに映像的進化がはっきりと見られるので、個人的にそれを劇場の大きなスクリーンで見られなかったこと、また同時に映画館での公開を通して多く人々に良い作品が届く機会が失われてしまったことが残念でなりません。

 

映画『あの夏のルカ』とは?

この作品は、ピクサーの長編作品として最初の『トイ・ストーリー』から数えて24作目になります。監督は、イタリア人のエンリコ・カサローザという人物で、この人については名前に全く聞き覚えがありませんでしたが、過去には同じくピクサー作品の『メリダとおそろしの森』(2012年)と劇場で同時公開された短編『月と少年』という作品を手掛けた人とのことで、私は『メリダとおそろしの森』は劇場で見ているので、うっすらと『月と少年』についても記憶があるくらいだったので、この機会に見直してみました(こちらの短編は『メリダとおそろしの森』のBlu-rayソフトまたは短編集『ピクサー・ショート・フィルムVol.2』に収録されています)。こちらもとても良い作品でした。

 

あらすじ(ディズニーのHPより)

平穏な海の世界に暮らすシー・モンスターの少年ルカ。友人のアルベルトと〈海の掟(おきて)〉を破り、人間の世界に足を踏み入れる。身体が乾くと人間の姿になる彼らは、少しでも水に濡れると元の姿に…。この“秘密”を抱きながらも、ルカは目の前に広がる新しい世界に魅了されていく。だが、2人の無邪気な冒険と友情はやがて、海と陸とに分断されてきた2つの世界に大事件を巻き起こす─。

公式キャッチコピー
「秘密を抱えたあの夏、僕たちは少し大人になった・・・」

 

ルカは初めて「外の世界」へ

ルカの両親は過保護気味で、我が子を危険な目に合わせたくない一心で、「『外の世界(=人間の住む陸上)』へ行ってはいけない」と常々口うるさく言っていました。しかし、好奇心旺盛なルカは外の世界が気になっています。そしてある日、偶然海底に落ちてきた人間の道具を見つけたことで、「外の世界」への興味は膨れ上がってしまいます。こういった、子どもの好奇心や少し過保護気味の親といえば、ピクサーの過去作『ファインディング・ニモ』に通じる部分があります。そして、『ファインディング・ニモ』(&続編『ファインディング・ドリー』)以上に、今作での海の中の描写はとても美しく、なおかつ創造力に富んでいて、見ていると非常にわくわくします。

ルカは「外の世界」への興味がマックスになったのと時を同じくして、同じシー・モンスターの少年アルベルトに出会います。どうやらアルベルトは何度も「外の世界」に行ったことがあるようです。そして、アルベルトの案内でルカは初めて「外の世界」へ行きます。その日以来、ルカはたびたび「外の世界」にアルベルトとともに行くようになります。

陸上に上がるのが初めてのルカは、姿こそ人間になったものの、二本足で歩いた経験がないので、アルベルトの助けを借りながら二足歩行の練習をする場面は微笑ましく新鮮です。

 

あこがれの「ベスパ」とジブリ作品オマージュ

普段は父親と二人で生活しているいうアルベルトですが、ちょうど今は父親がしばらく遠くに出かけていて、今は一人で暮らしているとのことでした。そして、陸上にあるアルベルトの秘密基地風の家にあがったルカは、「どこへでも行ける」という人間の乗り物「ベスパ」を知り、興味とあこがれを抱きます。そして、「僕たちは、『ベスパ』があれば自由になれる」と思います。ちなみに「ベスパ」は、映画『ローマの休日』(1953年)や日本のドラマ『探偵物語』(1979年)などに登場するイタリア製のスクーターです(↓参考画像)。

二人は海で拾ったガラクタを使ってお手製の「ベスパ」を作って、一緒に坂を駆け下ります。このくだりは、おそらくジブリ映画の『魔女の宅急便』でのトンボがお手製の自転車で空を飛ぼうとしてそれにキキが付き合うシーンのオマージュだと思います。というのも、エンリコ・カサローザ監督は、ジブリ作品が大好きであることを公言しており、ほかにもジブリ作品へのオマージュと思われるところがいくつもあります。例えば、今回二人が訪れる人間の町はポルトロッソと言います。これはジブリ作品の『紅の豚』の主人公ポルコ・ロッソから来ているといわれています。

 

人間の町へ、そしてレースに向けた特訓

ある日、ルカは両親に「外の世界」に行ったことがバレてしまい、そのペナルティとしてメチャクチャ怖い親戚のおじさんのいる深海に連れて行かれそうになります。それを避けるためにルカは「外の世界」へと家出をして、アルベルトともに港町ポルトロッソに行くことにします。

ポルトロッソに来た二人は、初めて本物の「ベスパ」に出会います。そして、その町で毎年開催される三種目(パスタの早食い・水泳・自転車)レース大会「ポルトロッソカップ」の存在、そしてそのレースで優勝すれば賞金を手に入れることができ、その賞金があれば「(中古でボロボロの)ベスパ」が買えることを知ります

また、そのレースではエルコレという不良が5年連続で優勝しているということを知り、そして毎年レースに負けて悔しい思いをしているジュリアという少女に出会います。

ルカとアルベルトはジュリアとチームを組んで、レースに出場することになります。ルカは自転車、アルベルトはパスタ早食いをすることになります。ただし、ルカは自転車に乗るのは初めてですし、アルベルトもフォークを使ってパスタを食べるのは初めてです。このままでは優勝なんてとてもじゃないけどできません。そこでジュリアの家に住み込んで、レースに向けた特訓を始めます。

しかし、二人は陸上にいても体が水にぬれるとシー・モンスターの姿に戻ってしまいます。そして、ポルトロッソの町の人々はいまだに見たことのないシー・モンスターを伝説の怪物と恐れており、いつか見つけて退治してやろうと思っています。そこで、二人は姿がバレないようにぬれるのを避けながら特訓生活をしていきます。特にジュリアの父マッシモはシー・モンスターを捕まえたいと人一倍思っている人でした。

最初は全く登れなかった坂道をだんだんと登れるようになっていくルカの姿と、フォークに使い方をマッシモに習ううちにパスタを食べるのがだんだんと上手になっていくアルベルトの姿がしっかりと段階を踏んで丁寧に描写されています

 

(多少ネタばれ有)新しい世界に興味を持つルカ

ジュリアは、普段はジェノバという別の町の学校に通っており、夏の間だけポルトロッソに帰省しているのでした。ジュリアから学校で使っている教科書(参考書?)を見せてもらったルカは、天文学を知り、学問やそれを学ぶ場所である学校に興味を持ちます。そして、今の自分の刺激のない退屈な生活を変えるために必要なのは、「ベスパ」ではなく自分が興味を持ったことを追求する新しい生活だと思い始めます。

一方、こう考え始めたルカが自分から離れて行ってしまうように感じたアルベルトは、だんだんとルカをそういう方向に導いたジュリアに対して冷たい態度をとるようになります。そしてある日、アルベルトはルカと喧嘩し、その時の勢いで自分たちがシー・モンスターであることをジュリアの前でばらしてしまいます

ジュリアに正体がバレてしまったため、ジュリアの家に居られなくなったルカは、仲直りをするためにアルベルトの家を訪れます。そこで、アルベルトの父親はずいぶん前に蒸発してしまっていて、アルベルトはずっと独りぼっちだったこと、さらにそんなアルベルトにとってはルカが唯一の友人であったということを知ります。そして、アルベルトの存在を再認識したルカは、当初の目的であった「ベスパ」を手に入れるために一人でレースに出場することにします

 

(ネタばれ有)レース出場、そして決着

そして、レース当日。レースは水泳→早食い→自転車の順でレースを行われます。ルカは普通に泳いでしまったら体がぬえてシー・モンスターの姿になって、ジュリア以外の人々にも正体がバレてしまうため、体がぬれないように宇宙服のようなスーツを着て泳ぎ(というか海底を歩いて)、水泳を何とか乗り切ります。

次にパスタの早食い。ここでもジュリアの助けもあって、何とかフォークを使いこなしパスタを食べきることができました。しかし、食べきるのに時間がかかってしまい、ここでかなり順位を落としてしまいました。

最後は、今まで一生懸命練習してきた自転車。ここでは今までの特訓の成果が発揮され、坂道で前を走っている選手たちをごぼう抜きし、なんとルカはトップに躍り出ます。しかし、坂を上り切ってあとは坂を下るだけという地点で、雨が降ってきてしまいます。体がぬれるとシー・モンスターに戻ってしまい、正体がバレてしまいます。困って雨宿りしていると、アルベルトが走って傘を持ってきてくれました。

しかし、不良のエルコレはそれを妨害するためにアルベルトを突き飛ばします。突き飛ばされたアルベルトは雨にぬれて、みんなの前でシー・モンスターの姿になってしまいます。その姿を見たエルコレは、網を使ってアルベルトをとらえようとします。アルベルトを助けるためにルカはぬれることを恐れずに雨の中に飛び出していき、アルベルトを助けて一緒に自転車で坂を下ります

下り坂でエルコレを振り切り、二人はゴールまで来ます。しかし、ゴール手前で転んだジュリアを助けるために二人は引き返して、ジュリアに肩を貸します。しかし、「おい、シー・モンスターだぞ!」と言う町の人々。そこで人一倍シー・モンスターを捕まえようとしていたジュリアの父マッシモが出てきます。マッシモは二匹のシー・モンスターが自分の家に住み込んでいたルカとアルベルトであることに気づきます。そのマッシモのリアクションから周囲の人々も二匹を受け入れます。

さらに、二人の乗った自転車がジュリアを助ける前の段階で実はゴールラインを過ぎていたこともわかり、二人はポルトロッソカップの優勝者としても認められます

 

(ネタばれ有)感動のエピローグ

優勝賞金で「ベスパ」を購入した二人。しかし、ボロボロの中古なので、それで旅に出るには時間をかけて修理する必要があります。しかし、そうこうしているうちに学校再開の時期になり、ジュリアがジェノバの町に戻る日が来ました

父のマッシモ、そしてルカたちと別れの挨拶をして汽車に乗り込むジュリア。そして、別れを惜しんでいるルカに対して、アルベルトがさっとジェノバ行きの切符を手渡します。実は、アルベルトはせっかく手に入れた「ベスパ」を売ってしまっていて、そのお金で買ったジェノバ行きの汽車の切符をルカにプレゼントしたのでした。友人として、ルカの幸せを考えた末の行動だったのでしょう。また、ルカの家族もルカの気持ちを尊重して、学校に通うことを認めてくれます。ルカの家族はレースでのルカの姿を見て、少し見ない間にルカが大きく成長したことを知ったのでした。ルカが危険な目に合わないようにと、今までルカの行動を制限してきた両親は、今のルカならこれから待ち受けるであろうどんな困難にも自分の力で立ち向かうことができると思ったのでしょう

一方で、アルベルトは、レースに向けた住み込みでの特訓中に海での漁を手伝っているうちに、ジュリアの父マッシモとの間で本当の父と子のような愛情を感じていて、これからは二人で暮らすようになります。唯一の友人であったルカと離れ離れになってしまったアルベルトでしたが、一緒に暮らす新しい家族が出来のでした

ルカが汽車に乗り込み、ジェノバの町に向かう中で映画は終わりエンドロールになりますが、エンドロールでは登場人物たちのその後が描かれます

 

映画『あの夏のルカ』のメッセージは?

エンリコ・カサローザ監督はこの作品を「とても個人的な物語」なのだと言います。今作の舞台は架空の町ですが、それは監督自身が育ったイタリアの町がモデルになっているようで、「少年同士の絆が将来を切り開く」というのが大きなテーマであると語っています。しかも、アルベルトというのは監督自身が中学生の頃に出会った友人の名前で、その友人はシャイで地味な生活を送っていた監督の背中を教えてくれた人なのだと言います。このことからも、この物語の主人公ルカは監督の少年時代を投影したキャラクターであることがわかりますね

また、この物語の中で象徴的に描かれているのが他者や異文化との共存です。世界が分かれてしまっていて、お互いを恐れ嫌い合っている人間とシー・モンスター。しかし、それはお互いを知らないから来るものであり、そういった先入観やイメージを持たずに付き合い始めたルカ&アルベルトとジュリア&マッシモの間には間違いなく友情や愛情が生まれていました。この部分に関しては、ルカの祖母のセリフが最も印象的です。

「あの子(=ルカ)を受け入れない者はいる。でも、受け入れてくれる者もいる。ルカはもうちゃんと見つけているよ。」

そして、このセリフに対応するようにルカが汽車に乗るラストシーンでは、大きく広がる曇り空の間から太陽の光が差す描写で終わります。これは、これから待ち受けているであろう厳しい環境や境遇(=曇り空)の中にも確かに希望(=太陽の光)はあるという情景描写でしょう。

いやー、ピクサーがまたとんでもない作品を作ってくれました。是非、ご覧ください。

 

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人生を豊かにする芸術作品⑧『gifted/ギフテッド』

こんにちには、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第八弾となる今回は、映画の『gifte/ギフテッド』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)

 

タイトルの「ギフテッド」とは?

この作品の登場人物である7歳の女の子・メアリーは生まれながらにして数学の天才です。このように、生まれながらにして豊かな知性や精神性を持っている子のことを「ギフテッド」と言います。wikipedia情報によると、アメリカの教育省では「ギフテッドとは、同世代の子供と比較して、並外れた成果を出せる程、突出した知性と精神性を兼ね備えた子供のことである。」と定義してる、とのことです。

「ギフテッド(gifted)」は、もともと「贈り物」を意味する”gift”が語源で、「(神から)贈られた才能(を持った子)」という意味でしょう。

こういった生まれながらにして特異な才能を持っている子に対しては、様々な国でそれ相応の教育が用意されています。特にアメリカでは、一般の子よりも短い期間で中学・高校を卒業し大学に進学する、いわゆる“飛び級”が認められている大学がいくつもあります。この他、裕福な家庭では家庭内で高度な教育を行う(ホーム・スクーリング)という例もあるようです。

ちなみに日本でも、一部の大学・学部で“飛び級”の制度はありますが、ほぼその制度は使われていません。というのも日本では、年齢=学年の考えが強いためと言われています。

このような特別な教育が認められている一方で、同年代の一般の子と同じような経験ができないことによる人格形成の問題や同年代の友人ができないなどの人間関係の問題があります。

 

映画『gifted/ギフテッド』とは?

今回紹介する映画『gifted/ギフテッド』(原題『Gifted』)は、その名の通り「ギフテッド」を扱ったヒューマンドラマです。監督はマーク・ウェブという人物で、主人公のほろ苦い恋愛模様を描いた『(500)日のサマー』(2009年)という映画が様々な映画賞で評価され、世界的に一気に有名になりました。また『(500)日のサマー』は、そのクオリティだけでなく商業的にも成功しました。アメリカ映画の中では小規模予算の映画(製作費約7億5千万円くらい)でしたが、その何倍もの興行収入を得たのでした。

その後、映画『アメイジング・スパイダーマン』とその続編の『アメイジング・スパイダーマン2』の監督を務め、この2作品は日本を含めた世界中で大ヒットしました。ちなみに『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの1本あたりの製作予算は200億円以上です。

そして、再び『(500)日のサマー』と同じくらいの小規模予算の作品として『gifted/ギフテッド』(2017年)を製作しました。この作品の一般的な評価は、「ストーリーに斬新さこそないが、魅力的なキャストや優秀な製作者によって生み出された心温まる感動作」と言った感じでしょうか。私にとっても見るたびに心洗われるお気に入りの映画の1つです。見るたびに何度も泣いてしまいますので、ハンカチやティッシュの用意が必要です。

ちなみに「ギフテッド」の少女の叔父役として、マーベル映画『キャプテン・アメリカ』で知られるクリス・エヴァンスが主演しています。

 

あらすじ

フロリダの海辺の街で、ボートの修理をして生計を立てている独り身のフランク。彼は、天才数学者だったが志半ばで自殺してしまった姉の一人娘、メアリーを養っている。彼女は、先天的な数学の天才児「ギフテッド」であり、周りは特別な教育を受けることを勧めるが、フランクは「メアリーを普通に育てる」という姉との約束を守っていた。しかし、天才児にはそれ相応の教育を望むフランクの母(=メアリーの祖母)イブリンが現れ、フランクとメアリーの仲を裂く親権問題にまで発展していく・・・。

 

とにかくメアリー役の子役がすごい!

この作品を見て、誰もが感じるであろうことはギフテッド」のメアリーを演じたマッケナ・グレイスの素晴らしい演技です。彼女は大人びた7歳の天才少女を見事に演じ切っています。また、このような大人びた子どもが時折見せる年齢相応の子どもらしさに、私たちは感情を揺さぶられます。叔父のフランクに甘える姿、飼い猫のフレッドと戯れる姿、レゴで遊ぶ姿…などなど。

また、メアリーの親友は近所に住んでいる40代の女性ロバータ。メアリーがロバータと一緒に、ロバータの家でスピーカーから流れる音楽に合わせておもちゃのマイクを持ちながら熱唱しているシーンは、メアリーの子どもっぽさが表れているのと同時に、ロバータとの世代を超えた友情を示す名シーンです。

 

フランクがメアリーを「普通の子」として育てたい理由

メアリーの才能に気づいた周囲は、メアリーに「ギフテッド」向けの特別な教育を受けさせることを勧めます。しかし、メアリーの叔父フランクは、メアリーを同年代の一般の子が通う小学校に通わせて、「普通の子」として育てることにこだわります。それはフランクの姉であり、メアリーの母であるダイアンが望んだことがだったからです。

ダイアンは、100万ドルもの懸賞金がかけられた数学の難問「ナビエ・ストークス方程式」を解く一歩手前まで行くほどの天才数学者でした。しかし、その一方で天才ゆえの苦悩やシングルマザーとしての苦労があったのでしょう。ある日、フランクは思い悩んだ様子のダイアンから何やら相談を持ち掛けられますが、自分のプライベートな予定を優先してしまい、ダイアンの相談にまとも取り合いませんでした。結果、その日にダイアンは自殺したのでした。

フランクは、「自分があの時ダイアンの話をしっかりと聞いていれば…」という後悔の念を常に抱いており、その罪滅ぼしとしてせめて生前のダイアンが最も望んでいたこと(=「ギフテッド」のメアリーに「普通の子」として育ってほしい)を自分が責任を持って実現しようと決意します。

そこで大学教員という安定した職を捨て、都会ボストンから自然豊かで温暖な地フロリダへとメアリーと共に引っ越し、メアリーを実の子どものように愛情を注いで育ててきました。メアリーも自分のことを世界中の誰よりも愛してくれるフランクのことが大好きでした

決して裕福ではありませんでしたが、大好きなフランクや愛猫のフレッド、そして近所のロバータと一緒の生活はメアリーにとってはとても幸せなものでした。しかし、そんな幸せな生活はメアリーの祖母イヴリンが現れることによって揺るがされます。

 

(多少ネタばれ有り)イヴリンがメアリーの才能にこだわる理由

イヴリンは、メアリーが「ギフテッド」であることを聞きつけ、その才能を伸ばすための高等教育を受けさせるべきだと強く主張します。メアリーは、今まで解いたことのないような難しい数学の問題を解いたり、レベルの高い勉強ができたりする環境に対して大きな魅力は感じたものの、それでも大好きなフランクと暮らすことを望みます。

そんなメアリーの意思を無視して、イヴリンはフランクとの生活を強制的に終わらせるため、裁判を起こしてフランクからメアリーの親権を奪おうとします。イヴリンはなぜそこまでしてメアリーの才能を伸ばすことにこだわったのでしょうか。

実は、イヴリン自身もかつて数学の才能を持った人間の一人でした。そして、いつかは歴史に名が残るような数学者になりたいと夢見ていました。しかし、結婚・出産を機に数学者としての道を諦めます。そこで生まれた娘ダイアンに自分の夢を託し、数学者としての英才教育を受けさせました。それは時にダイアンの意思や自由を完全に無視するものでした。イヴリンはいわゆる「毒親」と化し、娘ダイアンのことを自分の夢を叶えるための道具としてしか考えないようになります

ですから、ダイアンが亡くなった今、次は孫メアリーに自分の夢を託そうとしたのです。もちろん優先順位としては、メアリー個人の幸せよりも自分の夢を叶えることの方が圧倒的に高いわけです。

こんな「毒親」に育てられたダイアンですから、「自分の子どもに自分と同じような思いをさせてはいけない!」と考え、メアリーには「普通の子」として育ったほしいと強く望んだのです。

 

(多少ネタばれ有)裁判の行方は?

裁判では、フランク・イヴリンともに激しくメアリーの親権を主張しますが、どちらも決め手に欠けます。ただし、フランク側の弁護士いわく、そういった場合に今回の担当裁判官は両者の経済力を比べるとのことです。一般的に親にお金があった方が、子どもは幸せな生活が送れるはずだと考えられるからです。そうなるとフランクにとっては不利です。大学教員を辞めてからずっと仕事としてやっている船の修理業は、正直儲かる仕事ではありませんでした。

一方でイヴリン側も、イヴリンがダイアンに行っていた常軌を逸した管理と英才教育が裁判の中で明らかになったことで自分たちの分が悪いと思っていました。そこでフランク側に対して、メアリーがレベルの高い教育が受けられて、なおかつ何不自由ない生活が送れるように、メアリーを里子に出すことを提案します。その提案の条件としては、「里親はフランクの家の近くの人であること」「猫のフレッドもメアリーと一緒に暮らすこと」「フランクとメアリーの面会日が定期的に設けられる」などが取り入れられました。

イヴリンが住んでいるのはボストンで、フランクの住んでいるフロリダからは遠く離れていますから、裁判に負けてイヴリンに親権を完全に取られてしまうと、フランクはメアリーに気軽に会えなくなってしまいます。そこでフランクは、悩みに悩んだ末に相手側からの提案を受け入れ、和解という形で裁判は終了します。これによってフランクとメアリーによる2人の生活は終わりを迎え、メアリーは別の家に里子として出されます。

 

(ネタばれ有)メアリーにとっての幸せとは?

メアリーが里子に出されてからしばらく経ったある日、メアリーが元々通っていた小学校の先生からフランク宛てに一通のメールが送られてきます。添付されている写真を見ると、里親のところでメアリーと一緒に暮らしているはずの猫(フレッド)が映っており、さらによく見るとフレッドの新しい飼い主募集のチラシでした。メアリーが大好きなフレッドを自分から手放すはずがありません。

フランクはここでイヴリンが和解案の約束を破っていたことに気づきます。そして、保健所で殺処分直前のフレッドを救い出すと、里親の家に乗り込み、メアリーを取り返そうとします。案の定、里親の家ではイヴリンによる数学の英才教育が行われている最中でした。

そこで明らかになるのが、実はダイアンは「ナビエ・ストークス方程式」を生前に解いていて、それを論文にまとめていたということでした。しかし、母イヴリンへの強い反発から、そのことをイヴリンには伏せておき、イヴリンの死後に公表してほしいということをフランクに伝えていたのでした。

イヴリンはそこで、自分が娘から恨まれていたこと、娘を追い込んでいたのは自分であったことに初めて気づきます。そして、メアリーから手を退く代わりにダイアンの残した論文を受け取り、専門家と協力してダイアンの功績を発表するための手続きに専念することを決めます。

その後、メアリーは昼までは大学レベルの授業を受け、放課後は地元の同年代の子どもたちと一緒に遊ぶことができる生活を手に入れます。ただ、何よりもメアリーにとって幸せなのは、大好きなフランク、愛猫のフレッド、親友のロバータとこれからも一緒に暮らせることです。

 

映画『gifted/ギフテッド』のメッセージとは?

この作品のメッセージの一つは、たとえ貧しくても本当に自分を愛してくれる人と一緒に暮らすことが何よりも幸せであるということですね。

親権争いの裁判中、児童カウンセラーと話をしている中でメアリーはフランクのことを「良い人だ」と話します。その理由を問われたときにメアリーはこう答えます。

「彼は私のことを最初から愛してくれた。」

これはこの作品の中で最も印象深いセリフの1つです。メアリーが「ギフテッド」だから親権を欲しがるイヴリンと、メアリーのことを一人の子どもとして愛してくれたフランク。メアリーにとって、どちらと暮らす方が幸せなのかは明白ですね。

ということで、映画『gifted/ギフテッド』は、万人のオススメできる感動作です。是非、ご覧ください。

 

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人生を豊かにする芸術作品⑦映画『ミッション:8ミニッツ』

※2022年12月に追記しています。

こんにちには、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第七弾となる今回は、SF映画の『ミッション:8ミニッツ』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)

 

「タイムループもの」の魅力

今回紹介する映画の大きな特徴は「タイムループもの」ということです。

「タイムループもの」とは、主人公が一定の期間を何度も繰り返すという構造の作品です。最も多いパターンとしては、主人公が何かのはずみで同じ1日を何度も繰り返すというものです。この場合、主人公が夜になって眠ったり、その日のうちに死んだりしたらリセットされて、同じ日の朝に自然と戻ります。

この「タイムループもの」は、今回紹介する『ミッション:8ミニッツ』を始めとして傑作映画が比較的多いです。というのも、「タイムループもの」はそのジャンルの特性上、映画として面白くなる要素を盛り込みやすいと思うのです。

まず、名作・傑作と言われる映画は脚本上の共通点として、「映画の最初と最後を比べたときに、登場人物が何かしらの成長していること」「前半の伏線が後半で回収されること」が挙げられます。

そこで、この「タイムループもの」は、主人公が「タイムループからいかにして抜け出すのか」が肝になるのですが、そのきっかけとして「主人公の成長」が描かれやすいのです。もう少しかみ砕くと、最初は人間性に問題があった主人公がタイムループを通して、人間的に成長するのです。

具体的には、タイムループに陥った当初はズルをして好きな人に好かれようとしたり、欲しいものを手に入れたりといった自分自身の欲望を満たすための行動をします。しかし、同じ日や時間を何百回、何千回と繰り返すうちに、それらが虚しく感じてきます。というのも、一時的な自分自身の欲望を満たすことはできても次の日にはそれがリセットされてしまうし、無限にタイムループをする中で常に感じる孤独感は埋めることができないからです。

すると、他者に目が向きます。最初は気にも留めなかったのに、他者それぞれのことをよく知るにつれて「自分だけでなく、この人たちにも幸せになってほしい」と思うようになります。これが主人公の人間的な成長です。

また、同じ1日を繰り返すということで、同じシーンが何度も繰り返されます。その中でちょっとした変化を加えることで、それが主人公の心境の変化や成長を表すことができます。また、同様に同じシーンを繰り返すことで前半の伏線を張り、後半でそれを回収することも通常の物語に比べて描きやすくなります

このように「タイムループもの」は映画的に面白くなる要素が盛り込みやすいのです。

 

映画『ミッション:8ミニッツ』とは?

今回紹介する『ミッション:8ミニッツ』(原題『SOURCE CODE』)は、2011年に公開されたアメリカ・フランス合作のSF映画です。正直、日本ではあまり知名度が高くないのですが、私個人的には、未だに1年に何度か見返すくらい大好きな作品で、それこそ小中学生から映画好きのおじさん・おばさんまで、幅広い世代の人々にオススメできる傑作です。

ちなみにどうでもいい情報ですが、この作品の監督は、ダンカン・ジョーンズという人物で、この人、実は2016年に亡くなった世界的に有名な歌手のデビット・ボウイの子どもなんですね。

 

あらすじ

シカゴ行きの通勤列車が爆破され、乗客全員が死亡。米軍のスティーヴンス大尉は、政府の極秘ミッションとして、特殊なプログラムを用いて乗客が死ぬ直前8分間の意識に侵入し、爆破の犯人を暴いて次なるテロを阻止する任務を課せられる。何度も犠牲者の意識に送り込まれ、死んではまた甦る、という悪夢のような<8分間>を繰り返し、少しずつ犯人に近づいていく一方で、スティーヴンスの心には次第に疑惑が膨らんでいく。爆破を防ぐことで乗客の命は救えるか?そして、なぜ自分がこの特殊任務に選ばれたのか?事件の真相、そして秘められた謎と禁断の事実に迫っていく彼を待ち受けていたのは…。

 

この映画の魅力とは?

主人公のスティーヴンスは、軍のエリートパイロットでアフガニスタンの最前線で戦っていたはずなのに、目を覚ますとアメリカ国内で朝のシカゴ行きの通勤列車に乗っています。しかも、目の前の女性は自分のことを親しげにショーンと呼んできます。そして、トイレで鏡を見ると、別人の顔になっています。

「えっ、誰?どういうこと?

頭の中がそんな思いで溢れる中、その列車で爆弾は爆破します。そして気づくと、何やら暗いカプセルの中にいました。そこでオペレーターの女性から自分が政府の極秘任務”SOURCE CODE”に参加していることを知ります。そして、オペレーターからの指示通り、爆破事件の犯人を捜すために再度列車の中に送り込まれて、爆破までの8分間の繰り返します。乗客との会話や列車内の様子を調べていく中でだんだんと犯人に近づいていきます。この謎解きのミステリー要素がストーリーの核になっています

さらに、何度も爆破までの8分間を繰り返す中で、目の前の女性や同じ列車に乗り合わせた乗客たちの人生についても考えるようになります。スティーヴンスが送り込まれる爆破までの8分間は、爆破事件で死亡した乗客の記憶(=すでに過去に起きた出来事)なので、彼らが8分後に死んでしまうことはどうあがいても変えられません。スティーヴンスが列車爆破事件の犯人を捜しているのは、次なる爆破事件を未然に防ぐためです。

ただし、もちろん彼らはまさか自分たちが8分後に死ぬなんて思ってもいないので、爆破までの8分間を普通に過ごしています。人間関係が上手くいかず悩んでいる人、列車の遅延にイライラしている人、怖い顔でパソコンとにらめっこしている人など…。そこで、彼らが8分後に死んでしまうこと自体は変えようがないならば、せめて最後の8分間を幸せに過ごしてほしいと思うようになります。これが主人公の人間的な成長の1つです。

また、戦地アフガニスタンに派遣される前にケンカして仲直りせずに別れてしまった父親との関係、そもそもアフガニスタンにいたはずの自分がなぜこの極秘任務に参加しているか、などいくつもの葛藤や疑問も同時進行で解決していきます。

こういったよく練られたストーリーに加えて、派手なアクションシーンも随所にあり、最初から最後まで視聴者の興味を持続させる工夫が凝らされています。

そしてこの映画、終わり方が本当に綺麗で、主人公に感情移入しながら見ていると最後にはいつも胸がいっぱいになります。また、観終わった後にはとても前向きな気持ちになります

最後に大切な言葉を紹介します。

「きっとうまくいく。」

この言葉は、この作品のメッセージの1つです。どんなに勉強や仕事でキツい状況でも、この言葉を忘れずにいましょう。

 

「タイムループもの」傑作5選

ここでは、『ミッション8ミニッツ』の他にオススメのタイムループものを4つ紹介します。

恋はデジャ・ブ

ビル・マーレー主演の1993年の映画で、「タイムループもの」の元祖にして最高傑作と言われています。

主人公の人気天気予報士は、取材先の田舎町でタイムループに陥り、同じ1日を繰り返すようになります。最初は傲慢でスター気取りだった主人公が、思いを寄せる女性を振り向かせるために今までしたことがないような地道な努力をしたり、主人公にとっては何でもない1日がその町のある人にとってはかけがえのない1日であったということに気づいたりします。

この作品以降の「タイムループもの」は多かれ少なかれこの作品の影響下にあると言えるでしょう。

 

パームスプリングス

2020年にアメリカで公開されたラブコメ映画です。これは「タイムループもの」の最新作にして、『恋はデジャ・ブ』を上手く現代風にアップデートしたような作品です。日本では今月9日公開されたのですが、昨年時点でアメリカでの前評判が非常に高かったこともあり、私は公開を心待ちにしていました。

実際に観てみると、「タイムループもの」にこちらが期待している要素をほぼ兼ね備えていて、なおかつタイムループに陥る主人公が2人であること、しかも1人は元々ループしていて、そこにもう1人が加わるという斬新なストーリーのため、多くの「タイムループもの」で描かれる、主人公の抱える孤独感を今までの作品群とは違った形で描くことができていて、とても新鮮です。

また、コメディ要素も多く、映画のタイトルにもなっている砂漠のリゾート地の雰囲気に映画全体のトーンがマッチしています。

一緒に長い時間を過ごす中で、どうしても元の日常に戻って人生をやり直したい主人公と、タイムループの中でそれなりに楽しい人生の送り方を見つけてしまったためにずっとこの1日を送りたい主人公。タイムループに陥った主人公が2人だからこその対比・葛藤・成長が見事に描かれています。そして、2人が迎える清々しいラストも素敵です。今後、間違いなく「タイムループもの」の代表作として名前が挙がるようになるでしょう。

 

ハッピーデスデイ

これは、2017年(日本公開は2019年)のアメリカ映画で、主人公が誕生日に謎の殺人鬼に何度も何度も殺される「タイムループもの」です。

作品中に主人公のセリフで『恋はデジャブ』が出てくるなど、ホラー映画として謎解き要素もありながら「タイムループもの」のツボである主人公の成長をしっかりと描いています。

主人公の女子大学生が謎の殺人犯に命を狙われますが、その原因は主人公自身にあり、謎を解いていくうちに自分自身の行いを反省します。また、イケイケの大学生として他人の目や友人付き合いを優先していた主人公が、自分自身に素直になるのも好感が持てます。

ちなみに続編としてハッピーデスデイ2Uがあります。

 

オール・ユー・ニード・イズ・キル

4つ目に紹介するのは、『ミッション・インポッシブル』シリーズなどで知られるトム・クルーズ主演のタイムループものです。こちらは、桜坂洋のライトノベルが原作で、2014年に公開されました。

人類が宇宙からの謎の侵略者との戦争中、戦闘に対して逃げ腰のトム・クルーズ扮する軍の広報担当がこともあろうに戦闘の最前線に送り込まれてしまいます。当然、即戦死。しかし、目を覚ますと戦闘前に戻っています。ここからタイムループに突入し、戦死しては戦闘前に戻るを繰り返します。

この作品は、他の作品と違って「タイムループをどう抜けるか」ではなく、「敵をどう倒すか」を探るためにタイムループをします。なので、RPGやアクションゲームをしているような感覚で飽きずに見られます。

 

Modays~このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない~

最後に紹介するのは、2022年の日本の映画です。この映画は過去のタイムループもののエッセンスを上手く取り入れつつも、目新しさが多くあり、笑えて泣ける名作です。この映画の大きな特徴は、ある会社の部署全員がタイムループに巻き込まれ、みんなで協力してタイムループを抜け出そうとするという点です。また、部署内のメンバーたちが徐々に自分たちがタイムループに巻き込まれていることに気づいて行くのも面白いです。個人的に2022年のベスト級に好きな映画でした。

ただ、公開規模が小さく知名度がまだ低いのが本当にもったいないですが、一部では「今年最大の拾い物」と高く評価されています。とにかく本当に面白いので多くの人々に見てほしいです。

 

今年のゴールデンウィークも昨年に続いて外出がしにくくなりそうですし、この機会に「タイムループもの」の映画を見てみるのはいかがですか?

 

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人生を豊かにする芸術作品⑥映画『アルプススタンドのはしの方』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第六弾となる今回は、青春映画の『アルプススタンドのはしの方』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)

 

あらすじ

高校野球・夏の甲子園一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席(アルプススタンド)の端っこで見つめる冴えない4人。最初から「しょうがない」と勝負を諦めている演劇部の安田と田宮、ベンチウォーマーの矢野をバカにする元野球部の藤野、野球部のエース園田に密かな思いを寄せる帰宅部の宮下の4人。せっかくの夏休みなのに、全校応援と言うことで仕方なく応援席に座る4人だったが、それぞれの思いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていく・・・。

 

実際に観てきた感想

正直、公開されるまで本作を全く知らなかったのですが、ふと流れてきたTwitterでの評価やレビューサイトでの評価が非常に高く、また私自身が野球好きということもあり、気になって観に行くことにしました。

この近くで上映しているのが桜木町のブルク13だけで、しかも1日に2回しか上映していないので、スケジュールをうまく調整して先週の木曜日に観てきました。

そして見終わった後には、率直に「良い映画見たな。」と思いました。本当によくできた脚本で、映画序盤・中盤の伏線が最後にはバシバシと回収され、すとんとキレイに終わります見事なラストショットからのエンドロールでthe peggiesの『青すぎる空』が流れ始めたときに私が感じたのは、まるで伊坂幸太郎の小説を読み終えたときのような爽快感でした。また、それと同時に胸の奥から熱い思いも湧き上がってきました。

 

この映画の特徴

この映画は、いわゆる野球映画でありながら、実際に野球をしているシーンは1つも出てきません。カメラは常に応援席を映していて、アナウンスや効果音、そして観客のセリフや様子が試合の状況を伝える仕組みになっています。これは、この作品の原作が舞台作品だったため、そこでの見せ方を映画にそのままトレースしているという感じです。

基本的に画面に映るのは球場の応援席とコンコース(お店やトイレがある通路)のみです。このように極端に舞台をシンプルにしているため、上映時間も75分とかなりタイトになっています。

また、主人公たち4人のうち、元野球部の男子・藤野を除く3人の女子たちは野球に全然詳しくないため、時折出てくる野球のちょっとしたプレーに対する素朴な疑問を言い合うセリフがいちいちギャグにもなっていて、野球好きの私にとってはそれらがメチャクチャ面白かったです。

 

この映画が描いているもの

世の中は、一部の「持っている人」と、その他大半の「持っていない人」とで構成されていると思うのですが、主人公の4人は確実に「持っていない人」たち。最近の言い方でいうと、いわゆる「陰キャラ(陰キャ)」の子たちです。

しかし、青春とは何も、「持っている人」だけが恋をしたり、何かに熱くなったりすることを指すわけではありません一般の青春映画では、そういった部分を中心に描くでしょうが、「持っていない人」にもいろいろな悩みはあるし、吹っ切りたい思いもあるわけで、そういった部分を上手く描いているのがこの映画です。

また、主人公たち以外にも、今では絶滅危惧種とも言える「熱血」英語教師が出てきます。彼はしきりに「みんなで心を一つにして応援するんだ!」「腹から声を出せ!」と暑苦しいことを叫んでいるので、ただの能天気なおっさんなのかと思いきや、実は彼も心に大きな闇を抱えていることがだんだんとわかってきます。そんな彼が独りになった時にふと階段を登りながらつぶやくのが「Don’t let it bring you down.(へこたれちゃダメだ。)です。このセリフ自体は、何気なく出てくるのですが、この映画の持つ大きなメッセージの1つでしょう。彼の心の闇や悩みを知った上で、このセリフを思い返すと思わず泣けてきます。

 

最後に

最初、主人公たちは何かと「しょうがない」と自分に言い聞かせて、諦めてしまいます。部員のインフルエンザによって目標としていた演劇の大きな大会に参加できなかったこと、野球部で強力なエースの存在によって自分が試合に全然出られなかったこと、模試の成績で吹奏楽部の部長に負けて学年2位になってしまったこと。

この「しょうがない」は、ダメな自分を納得させる魔法の言葉であると同時に、自分の限界を勝手に決めてしまう呪いの言葉でもあります

主人公たちは、勝ち目のない強豪校に挑む野球部の選手たちの頑張る姿や、それを応援するために懸命に演奏する吹奏楽部の子たちの姿を見て、この「しょうがない」を捨てていきます。この「持っていない人」の成長には、年代や性別に関係なく多くの人が共感できるでしょう。

そして、この映画を見終わった後には「『しょうがない』なんてことはない。どんなにきつい状況でも、とにかく全力でやってやるぜ。」という熱い気持ちが心に宿ります。

この映画は控えめに言っても、青春映画の大傑作だと思います。私はこれから先、毎年夏になると、「アルプススタンドのはしの方のあいつらにまた会いたいなー」と思うでしょう。それくらい大好きな映画になりました(パンフレットや特集記事の載っている映画秘宝も買いました!)。

ただでさえコロナの影響で映画館に行きにくくなっている中で、さらに上映されている映画館も少ないのが非常に残念ですが、1人でも多くの人にこの素晴らしい映画を見てほしいです。

 

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人生を豊かにする芸術作品⑤映画『Us(アス)』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第五弾となる今回は、ホラー映画の『Us(アス)』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)

現在公開中の映画『アス(Us)』を見てきた。

現在公開中(と言いつつ、かなり多くの劇場が既に公開終了に…)の映画『アス(Us)』を桜木町のブルク13で先日観てきました。この作品、日本では9月6日に公開されたので、公開してから既に4週間近く経ってますが、個人的にはずっと前から観たかった作品でした。なぜかというと、この作品の監督である、ジョーダン・ピール監督の前作『ゲット・アウト』(2017年)が大大大大傑作だったからです。ジョーダン・ピール監督は初監督作にして、『ゲット・アウト』でアカデミー脚本賞を受賞し、一気に名を上げました。かく言う私も、『ゲット・アウト』を公開当時に劇場で観て、かなりヤラれたので、ジョーダン・ピール監督の次の作品も絶対に劇場で観ようと思っていました。

 

映画『アス(Us)』のあらすじ

アデレードは夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンと共に夏休みを過ごすため、幼少期に住んでいた、カリフォルニア州サンタクルーズの家を訪れる。早速、友人たちと一緒にビーチへ行くが、不気味な偶然に見舞われたことで、過去の原因不明で未解決なトラウマがフラッシュバックする。やがて、家族の身に恐ろしいことがことが起こるという妄想を強めていくアデレード。その夜、家の前に自分たちとそっくりな”わたしたち”がやってくる・・・。

(公式ホームページより)

 

実際に見た感想

今回の『アス(Us)』、約半年前に公開されていたアメリカでは好評で、大手レビューサイトのRotten Tomatoesでは批評家の支持率が93%でした。そして、嫌でも期待が高まる中で鑑賞しましたが、やはり前評判通り、かなりの傑作でした。

この作品は、黒人一家の別荘に自分たちと全く同じような見た目の家族(劇中で”テザード”と呼ばれます。)が侵入してくる話で、いわゆる『ホーム・アローン』などに代表される“インベージョン物”と呼ばれる定型です。ただし、後半は話が拡大していき、最終的にはゾンビ映画に近い形になっていきます。実際に主人公の黒人一家は、自分たちと見た目がそっくりなテザードたちと、ゾンビ映画で生き残った人間とゾンビが戦うがごとく、必死に戦っていきます。これが中盤の見せ場になっているわけですが、いかにもホラー映画な画面が続く中でも、時折笑えるシーンが入り込んでおり、このバランス感覚が最高です。これは元々コメディアン出身であるジョーダン・ピール監督の作風と言えるでしょう。

そして、最後の展開。もちろん、ここではネタバレはしたくないので書きませんが、思わず「えっ、マジ?」というオチがあります。そして、そのオチから考えると、そこまでの間に数々の伏線と言える描写があり、すべてはそのオチに繋がっていたことに気づきます。そして、「あれ?もしかしたら、他にも見落としている伏線があるのでは?」と思い、二度、三度と見たくなる作品です。良い映画って大抵はそういうものですね。

また、個人的には見た後に何とも言えないモヤモヤする感覚が強くあったので、劇場パンフレットを買って読んだり、You Tubeでのレビュー動画をいくつも観たりして、モヤモヤを解消しました。こういう、自分が感じたモヤモヤは、その都度調べて解決することって勉強でも大事です。個人的な経験からすると、そういうのって後々になってまた必要になってきて、結局「あの時調べておけばよかったー!」ってなりますから。模試の解き直しもそうです。同じような知識が問われたときに、以前の解き直しがイケてないと、同じ間違えをします。大事なので、もう一度言います。自分が感じたモヤモヤは、その都度調べて解決しましょう

 

良いホラー映画の特徴

この『アス(Us)』に限らず、良いホラー映画には共通の特徴があると個人的に思っていて、それは直接的または間接的に”現実社会の問題点を映し出している”という点です。例えば、『Us(アス)』で言えば、映画内で直接セリフや字幕で説明はありませんが、明らかにアメリカ国内またが世界で広がる経済格差の問題を取り上げている作品です。それは劇中に「ハンドアクロスアメリカ」という1980年代のイベントのCMやそれを連想させるテザードたちの動きから示唆されています。

過去には、まさに当時起こっていた戦争、黒人の権利上昇に対する白人側から見た恐怖、大手チェーンの台頭による地域経済の破壊など、リアルタイムに世界で起きている事柄や問題意識がホラー映画に反映されることが多々ありました。ホラー映画ではないですが、怪獣映画の金字塔『ゴジラ』も元々は原爆や戦争といった、当時の日本人が最も恐れていたものが反映されていました。間接的であれ、こういった「現実感」があるからこそ、観客は目の前で起きていることが単なる他人事と思えず、その映画に引き込まれるわけです。

また、こういった表のストーリーの裏に作り手の問題意識を描いたり、別の何かを象徴させることをメタファーと言います。映画にしろ小説にしろ、それぞれの作品内のメタファーを読み取ることは、物事の本質を読み取る力につながります。ですから、優れた映画や小説などの芸術作品(一般的にはジャンル映画として低くみられている節のあるホラー映画や怪獣映画であっても!)を単に消費するだけでなく、こちらの意識次第では絶好の学びの機会にもなるのです。

 

最後に

つまり、何を言わんとしているかと言うと、学びの機会はどこにでも転がっているんだ、ということです。それが映画にしろ、本にしろ、音楽にしろ、ゲームにしろ、スポーツにしろ。なので、何かに夢中になることはとても良いことです。そのバランスさえ間違えなければ。ですから、色々ものに興味を持って、そこからたくさん学びましょう。

そして、これを書いた後に気づいたのですが、映画『Us(アス)』はどうやらR-15指定らしく、小中学生は今すぐには観られないようです(笑)。やってしまいました。ただ、せっかく書いたのをお蔵入りにするのがもったいないので、今回の作品云々に留まらず、とても大切なことを書いているのであえて公開します。なので、気になる人は高校生以上になってから観てね。

今回はこんなところで。また、更新しますね。ではまた。

 

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小学生向けの「読書会」という取り組み

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

今回は、7月中に行った小学生(小5・6)の国語の授業内での読書会についてです。

 

読書会」という取り組み 

小学生の国語の授業について、個人的にずっとやってみたかったのがこの「読書会」です。

前職の大手塾時代は、既定のカリキュラムや月末に行うテストが存在しているので、授業内について教室単位や講師個人による裁量の幅は非常に狭くなります(当然ながら、それでも講師の力量によって授業のクオリティは大きく変わります)。ただ、これは大手塾としては当然の指針だと思います。しかも、私が教室長をしていた教室では、小学生の高学年の人数は一学年で20名以上(多い時は40名近く)いましたので、なおさら自分自身の裁量で様々な取り組みを行うのはかなり難しい環境でした。

当時の私自身の力不足も十分あるのですが、このような環境の中で事業部共通のカリキュラムを概ねこなす授業のあり方に対して、モヤモヤした感覚を持っていました。そんな中で、様々な他塾の取り組みを個人的に調べていくと、とても魅力的な取り組みをしている塾が多くあることを知りました。

中でも最も衝撃を受けたのは小田原の慧真館(敬称略)の取り組みでした。「読書会」について書かれているこの記事には本当に影響を受けました。そして、フォルテ開校前に慧真館を見学させていただいた時にも、私が岸本先生に最も熱心に伺ったのがこの「読書会」の件でした。そして、それに対して上記の記事同様、包み隠さず真摯にお答えいただきました。本当にありがたかったです。

そしてフォルテでは、7月・12月・3月は月末の確認テストをしないため、その時期を利用して「読書会」しようと思いました。

 

課題作品の選定

記念すべき第一回となる今回、課題作品として選んだのは、重松清『日曜日の夕刊』『卒業ホームラン』などに収録されている、『さかあがりの神様』です。こちら、中学受験の入試問題や多くの塾用教材でも使われている、いわゆる定番作品です。この文章に限らず、重松清の作品はその特筆すべき巧みな心情描写ゆえに、やはり多くの入試問題や教材に使われていますね。

 実際に、今回も早い段階で重松清の作品にしようとは決めてはいたものの、具体的にどの作品にするかは結構迷いました。そして、選定のために春先だけで重松清の本を5~6冊読みました。その中でたまたま読んでいた『せんせい』収録の『泣くな赤鬼』が今年の6月に堤真一主演で映画化するというサプライズニュースもありました(ただ、公開館が少ない上にテスト対策真っただ中という時期だったので見れず・・・、そして内容が内容なだけに初回にしては重すぎるので課題作品にもしませんでした)。そして最終的に『さかあがりの神様』に落ち着いたのは、完全に個人的な好みですが、ストーリーと文章構成が巧みで、いわゆる「よくできた作品」だと思ったからです。

 

事前準備、そして「読書会」実施

フォルテでは、小学生の国語の授業は週1回なので、2週に分けて行いました(7月中の授業自体は3回ありましたが、うち1回は模擬試験の解説に当てたため)。また、初めての試みでもあったので、保護者の方にも事前に内容説明のメールを送信しました。

 また、小学5・6年生にとっては難しい言葉も多々あるので、作中に登場する難しめの言葉をまとめた語彙シート(文庫本で35ページ分で、40以上の語彙を掲載しました。)や内容確認のためのワークシートを作成しました。そして、全員分の文庫本を用意し(といってもブックオフで飼ったのですが)、初回授業の1週間前に配布して読んできてもらいことにしました。

 1週目は、ストーリーや登場人物の確認を、前述のワークシートを用いて行いました。普段の授業以上に1つの物語を詳しく扱うため、その分子どもごとの理解の差が大きく表れます。これは既出の慧真館の岸本先生の記事内にもある通り、子どもによっては「話の筋」「登場人物の相関関係」「心情の変化」が驚くほど読み取れていないのです。前職の大手塾時代から、夏休みの期間中に「読書感想文講座」を塾生向けに実施していて、その中で「絶対、そういう話じゃないだろ!」「この場面を読んで、この心情の変化はおかしくないか?」などと思うことは多かったのですが、そのときの感覚が思い出されて、妙に腑に落ちました。これは闇雲に本を読んだところで、最初は意識して読み取ろうとしないと、絶対に身につかないものだなと思います。

 2週目は、重松清節とも言える心情描写の読み取りと、この物語を読んで各々が考えたことや学んだことの書き出しを行いました。これら、特に後者は子どもたちが非常に苦手とするところであり、というのも今まであまり指導されてこなかったところだと思います。ただ、こういった部分とさらには自分自身の経験を結びつけるという作業がしっかりできないと、多くの子どもにとって夏休みの宿題で一番の難敵である読書感想文も出来ません(正確に言うと、仮に書き終えたとしても、多くの場合は感想文の体をなしていないので、「出来た」とは言えません。)。そう考えると、夏休みの課題で提出される読書感想文の大半は感想文の体をなしていないのでは?と思って、小学校の先生方の苦労がわかります。まぁ、夏休み前にある程度指導すればよい話かもしれませんが。

 

やってみての感想

結論から言うと、今回初めて「読書会」をやってみて本当に良かったです。やっている中で個人的にとても嬉しかったのが、保護者の方も一緒に作品を読んでくれて、作品について親子で会話をした、という報告を複数の子どもから聞いたことです(そして保護者の方にも今回の話が好評のようで、それも嬉しかったです)。

今回の取り組みはもちろん、子どもたちに読書の習慣をつけてほしいとか、語彙力・読解力を養ってほしいという思いからやっているのですが、それ以上に子どもたちが保護者の方と作品について語り合うことの方がずっと価値があると思います。そこでは、子どもたちの感じたことや考えたことを聞いてあげてほしいですし、逆に保護者の方が何を感じたのかを伝えてほしいです。これが出来れば、語彙力や読解力も副産物についてくると思います。また今までの経験として、このような会話がある良い親子関係を築いている家庭の子は成績が伸びやすい印象もあります。

一方、運営的な面でも上手くいったところもあれば、もっとこうすれば良かったと思う部分もあり、今後どんどんブラッシュアップしていければと思います。

この「読書会」、次回は12月に実施予定です。そこに向けてゆるりとではありますが課題作品を選定中です。

今回は以上です。ではまた!

 

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