人生を豊かにする芸術作品③映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第三弾となる今回は、映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』です。これまでに紹介した2作に比べると、名前すら聞いたことがないという方が多いでしょう。しかし、前2作に負けず劣らずの名作です。ジャンルで言うと、ヒューマンドラマとかハートフルコメディですね。あとは主人公一行が旅をしていくロードムービーになります。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)

 

あらすじ(公式HPより引用)

ロサンゼルスにある一流レストランの<総料理長>カール・キャスパーは、メニューにあれこれと口出しするオーナーと対立し、突然店を辞めてしまう。次の仕事を探さなければならない時にマイアミに行った彼は、絶品のキューバサンドイッチと出逢う。その美味しさで人々に喜んでもらう為に、移動販売を始めることに。譲り受けたボロボロのフードトラックを改装し、マイアミ~ニュー・オリンズ~オースティン~ロサンゼルスまで究極のキューバサンドイッチを作り、売る旅がスタートした―。

 

『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』の見どころ

まず全体を通して言うと、主人公がフードトラックでの旅を通して、物理的にも心情的にも離れてしまった子どもとの仲を取り戻す親子愛、主人公カールと元の店での部下(これが本当に良い奴!)との師弟愛、旅する男同士の素敵な友情など、ちょっぴり感動する要素がいくつもあり、間違いなく万人がおすすめできる傑作です。

この映画の大きなテーマは「仕事観」です。主人公カールは、雇われのシェフとしてオーナーからあれこれ口出しされながら自分が本来作りたくない大衆向けの料理を作らされることで高い報酬を得るよりも、収入は不安定ながらも本当に自分が本当に作りたい料理でお客さんを喜ばせることを選び、働いていたレストランを辞め、フードトラック(=日本で言うと屋台?)で再スタートします。つまり、主人公カールは仕事において「安定・収入」よりも「やりがい」を選んだわけです。この選択は、かなり勇気がいることです。

この映画を私は公開当時に劇場で鑑賞して気に入って、Blu-rayも購入して何度も鑑賞しているのですが、今回紹介するにあたって再度観直しました(計5回目くらい?)。しかし、今回見直したことで、今までに観たときにはなかった感慨深さがありました。それは今年2月に大手塾を辞めて、3月から自分の小さい塾で再スタートを切った私自身と、この主人公の境遇が重なったからです。そういう意味で、今作は私にとってより大切な1本となりました。このように自分自身が個人事業主であったり、会社の経営をやっていたりする方には心に響くものがあると思います。

次にSNS(主にTwitterやYouTube)に関する描写が印象的です。今作ではカール自身の不用意なツイートや店の客が撮影したカールの動画が本人の知らないうちに拡散してしまい、周囲はその対応に追われ、カール本人の名誉は著しく傷ついてしまいます。しかしその一方で、カールの息子のツイートによって、カールらのフードトラックでの旅の様子が拡散され、多くの人々の興味を引き、行く先々で行列ができるようになります。このようにSNSの良い面と悪い面、「要はSNSは使い方次第である」というのが示されていることは、いかにも現代っぽいと言えるでしょう。

他にも主人公を演じるジョン・ファヴローが、今作の撮影前にプロの料理人に弟子入りして料理を学んだだけあり、料理のシーンが本格的かつテンポ良く撮影されています。そして、何より映画内で登場する料理がすべておいしそうです。特に、カールらがフードトラックで売り歩くキューバ風のサンドイッチは思わず食べたくなります。しかし、キューバ料理のお店が日本にはあまりなく、その点は残念でならないです。

 

監督、ジョン・ファヴローという男

この映画の監督兼主演はジョン・ファヴローという人です。この名前を聞いてピンとくるのは、一部の映画好きだけでしょうが、この映画は、彼自身のことを知っているとより感動的に感じます。

ジョン・ファヴローの名が世界中に広まったきっかけは、言わずと知れた人気シリーズ『アイアンマン』(2008年)の監督を務め、世界的大ヒットを飛ばしたことでしょう。この『アイアンマン』のヒットから、大手アメコミ出版社のマーベル・コミックが仕掛ける同じ世界観の作品たち、いわゆる「マーベル・シマティック・ユニバース」シリーズが始まりました。具体的には、『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ』『インクレディブル・ハルク』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などの作品がマーベルの作品です。

あと、日本でもマーベル(MARVEL)のロゴが書かれた文房具やカバン、洋服などのアパレル用品が一般的になっていますよね(うちの生徒たちも多く使っています)。このようなグッズの展開も『アイアンマン』の大ヒットがなければ成し得なかったことでしょう。ちなみに今作にも『アイアンマン』の主演俳優のロバート・ダウニー・Jr.が出演しています。

そのジョン・ファヴローですが、その後も続編『アイアンマン2』(2010年)の監督を務め、1作目を超える大ヒットを収めます。2作連続での大ヒットによって映画監督として確実にステップアップしたところでしたが、その直後に監督した大規模映画(100億円以上の予算をかけた映画)『カウボーイ&エイリアン』(2011年)が大惨敗に終わります。映画のクオリティは大不評で、なおかつ周囲の期待するようなヒットにもなりませんでした。

恐らくですが、ジョン・ファヴロー自身にとってもこの映画については不本意な出来だったかと思います(実際に相当ヒドい出来です笑)。そして次の監督作として決まっていた同じく大規模映画での『アイアンマン3』の監督を降板し、一端ハリウッドの最前線から退きます

そして結局、次に監督したのが今作『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』です。この映画は前述の『アイアンマン』シリーズや『カウボーイ&エイリアン』などと比べると、およそ10分の1ほどの予算でつくられた小規模映画です。今作は当初、全米でわずか6館のみでの公開でしたが(ちなみに『アイアンマン2』の公開館数は4380館でした!)、評判が評判を呼び、徐々に公開館数が増えていき、結果的には全米で大ヒットを記録しました。これによって、ジョン・ファヴローは一度急落した自身の映画監督としての評価を完全に取り戻したのでした。

そうです。今作でジョン・ファヴローが演じた、店のオーナーにあれこれ口出しされて自分の思い通りの料理が作れない主人公カールは、大手の映画会社の偉い人たちにあれこれ口出しをされて自分の思い通りの映画が作れなかったジョン・フォヴロー自身の投影なのです。主人公がフードトラックで再出発するのも、小規模映画(=今作『シェフ』~三ツ星フードトラック始めました~)で再出発した自分自身の投影です。実際にこの映画を作る際にジョン・ファヴローが一番気にしたのが、「映画の内容の最終決定権を自分が握る」ことだったようです。そのことからも、今作がジョン・ファヴローの本当に作りたかった作品であることがわかります。ちなみにジョン・ファヴローは前述の通り、『アイアンマン3』の監督オファーを映画会社から受けていましたが、それを断って今作を制作しました。『アイアンマン3』の監督としてのギャラは10億円と言われていました。やはり「お金」ではなく、「やりがい」で仕事を選んだんですね。それが主人公カールに大いに反映されています。

今作の成功で評価を回復したジョン・ファヴローは、ディズニー映画『ジャングル・ブック』(2016年)の実写版で監督を務めて、世界的大ヒットを記録しました。そして今年の夏には最新作として、同じくディズニー映画『ライオン・キング』の実写版が公開される予定です。こちらも楽しみですね。

 

最後に

この映画、全編を通して流れる小気味よいラテン音楽(定番曲のバンドカバーの曲群)も相まって、観ていて終始ワクワクします。それでいて、前述の通り、ストーリーは綺麗で変な刺激の強さがなくホロリと感動できる傑作です。見ていると心が洗われます。

あとは主人公たちが車でアメリカを横断しながら、各地の名産を料理に取り入れていく描写や各地の特色についての登場人物同士の会話を通して、アメリカの地理や歴史の勉強にもなり、子どもから大人まで楽しめ、何度も見返したくなる作品です。

ということで、こちらの作品もフォルテにBlu-rayを置きます。気になる方は是非~。

それでは、また。

 

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