こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。
このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。
ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。
優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。
第六弾となる今回は、青春映画の『アルプススタンドのはしの方』です。
<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
あらすじ
高校野球・夏の甲子園一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席(アルプススタンド)の端っこで見つめる冴えない4人。最初から「しょうがない」と勝負を諦めている演劇部の安田と田宮、ベンチウォーマーの矢野をバカにする元野球部の藤野、野球部のエース園田に密かな思いを寄せる帰宅部の宮下の4人。せっかくの夏休みなのに、全校応援と言うことで仕方なく応援席に座る4人だったが、それぞれの思いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていく・・・。
実際に観てきた感想
正直、公開されるまで本作を全く知らなかったのですが、ふと流れてきたTwitterでの評価やレビューサイトでの評価が非常に高く、また私自身が野球好きということもあり、気になって観に行くことにしました。
この近くで上映しているのが桜木町のブルク13だけで、しかも1日に2回しか上映していないので、スケジュールをうまく調整して先週の木曜日に観てきました。
そして見終わった後には、率直に「良い映画見たな。」と思いました。本当によくできた脚本で、映画序盤・中盤の伏線が最後にはバシバシと回収され、すとんとキレイに終わります。見事なラストショットからのエンドロールでthe peggiesの『青すぎる空』が流れ始めたときに私が感じたのは、まるで伊坂幸太郎の小説を読み終えたときのような爽快感でした。また、それと同時に胸の奥から熱い思いも湧き上がってきました。
この映画の特徴
この映画は、いわゆる野球映画でありながら、実際に野球をしているシーンは1つも出てきません。カメラは常に応援席を映していて、アナウンスや効果音、そして観客のセリフや様子が試合の状況を伝える仕組みになっています。これは、この作品の原作が舞台作品だったため、そこでの見せ方を映画にそのままトレースしているという感じです。
基本的に画面に映るのは球場の応援席とコンコース(お店やトイレがある通路)のみです。このように極端に舞台をシンプルにしているため、上映時間も75分とかなりタイトになっています。
また、主人公たち4人のうち、元野球部の男子・藤野を除く3人の女子たちは野球に全然詳しくないため、時折出てくる野球のちょっとしたプレーに対する素朴な疑問を言い合うセリフがいちいちギャグにもなっていて、野球好きの私にとってはそれらがメチャクチャ面白かったです。
この映画が描いているもの
世の中は、一部の「持っている人」と、その他大半の「持っていない人」とで構成されていると思うのですが、主人公の4人は確実に「持っていない人」たち。最近の言い方でいうと、いわゆる「陰キャラ(陰キャ)」の子たちです。
しかし、青春とは何も、「持っている人」だけが恋をしたり、何かに熱くなったりすることを指すわけではありません。一般の青春映画では、そういった部分を中心に描くでしょうが、「持っていない人」にもいろいろな悩みはあるし、吹っ切りたい思いもあるわけで、そういった部分を上手く描いているのがこの映画です。
また、主人公たち以外にも、今では絶滅危惧種とも言える「熱血」英語教師が出てきます。彼はしきりに「みんなで心を一つにして応援するんだ!」「腹から声を出せ!」と暑苦しいことを叫んでいるので、ただの能天気なおっさんなのかと思いきや、実は彼も心に大きな闇を抱えていることがだんだんとわかってきます。そんな彼が独りになった時にふと階段を登りながらつぶやくのが「Don’t let it bring you down.(へこたれちゃダメだ。)」です。このセリフ自体は、何気なく出てくるのですが、この映画の持つ大きなメッセージの1つでしょう。彼の心の闇や悩みを知った上で、このセリフを思い返すと思わず泣けてきます。
最後に
最初、主人公たちは何かと「しょうがない」と自分に言い聞かせて、諦めてしまいます。部員のインフルエンザによって目標としていた演劇の大きな大会に参加できなかったこと、野球部で強力なエースの存在によって自分が試合に全然出られなかったこと、模試の成績で吹奏楽部の部長に負けて学年2位になってしまったこと。
この「しょうがない」は、ダメな自分を納得させる魔法の言葉であると同時に、自分の限界を勝手に決めてしまう呪いの言葉でもあります。
主人公たちは、勝ち目のない強豪校に挑む野球部の選手たちの頑張る姿や、それを応援するために懸命に演奏する吹奏楽部の子たちの姿を見て、この「しょうがない」を捨てていきます。この「持っていない人」の成長には、年代や性別に関係なく多くの人が共感できるでしょう。
そして、この映画を見終わった後には「『しょうがない』なんてことはない。どんなにきつい状況でも、とにかく全力でやってやるぜ。」という熱い気持ちが心に宿ります。
この映画は控えめに言っても、青春映画の大傑作だと思います。私はこれから先、毎年夏になると、「アルプススタンドのはしの方のあいつらにまた会いたいなー」と思うでしょう。それくらい大好きな映画になりました(パンフレットや特集記事の載っている映画秘宝も買いました!)。
ただでさえコロナの影響で映画館に行きにくくなっている中で、さらに上映されている映画館も少ないのが非常に残念ですが、1人でも多くの人にこの素晴らしい映画を見てほしいです。
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