こんにちには、フォルテの文系担当の上村です。
このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。
ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。
優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。
第九弾となる今回は、みんな大好きなピクサー映画の『あの夏のルカ』です。
<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)
第六弾:映画『アルプススタンドのはしの方』(ココをクリック)
第七弾:映画『ミッション:8ミニッツ』(ココをクリック)
第八弾:映画『gifte/ギフテッド』(ココをクリック)
目次
コロナ禍のピクサー作品への影響
2020年からの新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、ピクサー作品の公開も大きな影響を受けました。まず2020年3月に日本公開予定だった『2分の1の魔法』は公開が延期となり、その後2020年8月に公開しました(アメリカでは同年3月公開)。
また、その次の『ソウルフルワールド』と今作『あの日のルカ』の2作品は、劇場公開自体が見送られ、ディズニー+での配信公開となりました。この2作品とも間違いなく傑作ですし、ピクサー作品は作品ごとに映像的進化がはっきりと見られるので、個人的にそれを劇場の大きなスクリーンで見られなかったこと、また同時に映画館での公開を通して多く人々に良い作品が届く機会が失われてしまったことが残念でなりません。
映画『あの夏のルカ』とは?
この作品は、ピクサーの長編作品として最初の『トイ・ストーリー』から数えて24作目になります。監督は、イタリア人のエンリコ・カサローザという人物で、この人については名前に全く聞き覚えがありませんでしたが、過去には同じくピクサー作品の『メリダとおそろしの森』(2012年)と劇場で同時公開された短編『月と少年』という作品を手掛けた人とのことで、私は『メリダとおそろしの森』は劇場で見ているので、うっすらと『月と少年』についても記憶があるくらいだったので、この機会に見直してみました(こちらの短編は『メリダとおそろしの森』のBlu-rayソフトまたは短編集『ピクサー・ショート・フィルムVol.2』に収録されています)。こちらもとても良い作品でした。
あらすじ(ディズニーのHPより)
平穏な海の世界に暮らすシー・モンスターの少年ルカ。友人のアルベルトと〈海の掟(おきて)〉を破り、人間の世界に足を踏み入れる。身体が乾くと人間の姿になる彼らは、少しでも水に濡れると元の姿に…。この“秘密”を抱きながらも、ルカは目の前に広がる新しい世界に魅了されていく。だが、2人の無邪気な冒険と友情はやがて、海と陸とに分断されてきた2つの世界に大事件を巻き起こす─。
公式キャッチコピー
「秘密を抱えたあの夏、僕たちは少し大人になった・・・」
ルカは初めて「外の世界」へ
ルカの両親は過保護気味で、我が子を危険な目に合わせたくない一心で、「『外の世界(=人間の住む陸上)』へ行ってはいけない」と常々口うるさく言っていました。しかし、好奇心旺盛なルカは外の世界が気になっています。そしてある日、偶然海底に落ちてきた人間の道具を見つけたことで、「外の世界」への興味は膨れ上がってしまいます。こういった、子どもの好奇心や少し過保護気味の親といえば、ピクサーの過去作『ファインディング・ニモ』に通じる部分があります。そして、『ファインディング・ニモ』(&続編『ファインディング・ドリー』)以上に、今作での海の中の描写はとても美しく、なおかつ創造力に富んでいて、見ていると非常にわくわくします。
ルカは「外の世界」への興味がマックスになったのと時を同じくして、同じシー・モンスターの少年アルベルトに出会います。どうやらアルベルトは何度も「外の世界」に行ったことがあるようです。そして、アルベルトの案内でルカは初めて「外の世界」へ行きます。その日以来、ルカはたびたび「外の世界」にアルベルトとともに行くようになります。
陸上に上がるのが初めてのルカは、姿こそ人間になったものの、二本足で歩いた経験がないので、アルベルトの助けを借りながら二足歩行の練習をする場面は微笑ましく新鮮です。
あこがれの「ベスパ」とジブリ作品オマージュ
普段は父親と二人で生活しているいうアルベルトですが、ちょうど今は父親がしばらく遠くに出かけていて、今は一人で暮らしているとのことでした。そして、陸上にあるアルベルトの秘密基地風の家にあがったルカは、「どこへでも行ける」という人間の乗り物「ベスパ」を知り、興味とあこがれを抱きます。そして、「僕たちは、『ベスパ』があれば自由になれる」と思います。ちなみに「ベスパ」は、映画『ローマの休日』(1953年)や日本のドラマ『探偵物語』(1979年)などに登場するイタリア製のスクーターです(↓参考画像)。
二人は海で拾ったガラクタを使ってお手製の「ベスパ」を作って、一緒に坂を駆け下ります。このくだりは、おそらくジブリ映画の『魔女の宅急便』でのトンボがお手製の自転車で空を飛ぼうとしてそれにキキが付き合うシーンのオマージュだと思います。というのも、エンリコ・カサローザ監督は、ジブリ作品が大好きであることを公言しており、ほかにもジブリ作品へのオマージュと思われるところがいくつもあります。例えば、今回二人が訪れる人間の町はポルトロッソと言います。これはジブリ作品の『紅の豚』の主人公ポルコ・ロッソから来ているといわれています。
人間の町へ、そしてレースに向けた特訓
ある日、ルカは両親に「外の世界」に行ったことがバレてしまい、そのペナルティとしてメチャクチャ怖い親戚のおじさんのいる深海に連れて行かれそうになります。それを避けるためにルカは「外の世界」へと家出をして、アルベルトともに港町ポルトロッソに行くことにします。
ポルトロッソに来た二人は、初めて本物の「ベスパ」に出会います。そして、その町で毎年開催される三種目(パスタの早食い・水泳・自転車)レース大会「ポルトロッソカップ」の存在、そしてそのレースで優勝すれば賞金を手に入れることができ、その賞金があれば「(中古でボロボロの)ベスパ」が買えることを知ります。
また、そのレースではエルコレという不良が5年連続で優勝しているということを知り、そして毎年レースに負けて悔しい思いをしているジュリアという少女に出会います。
ルカとアルベルトはジュリアとチームを組んで、レースに出場することになります。ルカは自転車、アルベルトはパスタ早食いをすることになります。ただし、ルカは自転車に乗るのは初めてですし、アルベルトもフォークを使ってパスタを食べるのは初めてです。このままでは優勝なんてとてもじゃないけどできません。そこでジュリアの家に住み込んで、レースに向けた特訓を始めます。
しかし、二人は陸上にいても体が水にぬれるとシー・モンスターの姿に戻ってしまいます。そして、ポルトロッソの町の人々はいまだに見たことのないシー・モンスターを伝説の怪物と恐れており、いつか見つけて退治してやろうと思っています。そこで、二人は姿がバレないようにぬれるのを避けながら特訓生活をしていきます。特にジュリアの父マッシモはシー・モンスターを捕まえたいと人一倍思っている人でした。
最初は全く登れなかった坂道をだんだんと登れるようになっていくルカの姿と、フォークに使い方をマッシモに習ううちにパスタを食べるのがだんだんと上手になっていくアルベルトの姿がしっかりと段階を踏んで丁寧に描写されています。
(多少ネタばれ有)新しい世界に興味を持つルカ
ジュリアは、普段はジェノバという別の町の学校に通っており、夏の間だけポルトロッソに帰省しているのでした。ジュリアから学校で使っている教科書(参考書?)を見せてもらったルカは、天文学を知り、学問やそれを学ぶ場所である学校に興味を持ちます。そして、今の自分の刺激のない退屈な生活を変えるために必要なのは、「ベスパ」ではなく自分が興味を持ったことを追求する新しい生活だと思い始めます。
一方、こう考え始めたルカが自分から離れて行ってしまうように感じたアルベルトは、だんだんとルカをそういう方向に導いたジュリアに対して冷たい態度をとるようになります。そしてある日、アルベルトはルカと喧嘩し、その時の勢いで自分たちがシー・モンスターであることをジュリアの前でばらしてしまいます。
ジュリアに正体がバレてしまったため、ジュリアの家に居られなくなったルカは、仲直りをするためにアルベルトの家を訪れます。そこで、アルベルトの父親はずいぶん前に蒸発してしまっていて、アルベルトはずっと独りぼっちだったこと、さらにそんなアルベルトにとってはルカが唯一の友人であったということを知ります。そして、アルベルトの存在を再認識したルカは、当初の目的であった「ベスパ」を手に入れるために一人でレースに出場することにします。
(ネタばれ有)レース出場、そして決着
そして、レース当日。レースは水泳→早食い→自転車の順でレースを行われます。ルカは普通に泳いでしまったら体がぬえてシー・モンスターの姿になって、ジュリア以外の人々にも正体がバレてしまうため、体がぬれないように宇宙服のようなスーツを着て泳ぎ(というか海底を歩いて)、水泳を何とか乗り切ります。
次にパスタの早食い。ここでもジュリアの助けもあって、何とかフォークを使いこなしパスタを食べきることができました。しかし、食べきるのに時間がかかってしまい、ここでかなり順位を落としてしまいました。
最後は、今まで一生懸命練習してきた自転車。ここでは今までの特訓の成果が発揮され、坂道で前を走っている選手たちをごぼう抜きし、なんとルカはトップに躍り出ます。しかし、坂を上り切ってあとは坂を下るだけという地点で、雨が降ってきてしまいます。体がぬれるとシー・モンスターに戻ってしまい、正体がバレてしまいます。困って雨宿りしていると、アルベルトが走って傘を持ってきてくれました。
しかし、不良のエルコレはそれを妨害するためにアルベルトを突き飛ばします。突き飛ばされたアルベルトは雨にぬれて、みんなの前でシー・モンスターの姿になってしまいます。その姿を見たエルコレは、網を使ってアルベルトをとらえようとします。アルベルトを助けるためにルカはぬれることを恐れずに雨の中に飛び出していき、アルベルトを助けて一緒に自転車で坂を下ります。
下り坂でエルコレを振り切り、二人はゴールまで来ます。しかし、ゴール手前で転んだジュリアを助けるために二人は引き返して、ジュリアに肩を貸します。しかし、「おい、シー・モンスターだぞ!」と言う町の人々。そこで人一倍シー・モンスターを捕まえようとしていたジュリアの父マッシモが出てきます。マッシモは二匹のシー・モンスターが自分の家に住み込んでいたルカとアルベルトであることに気づきます。そのマッシモのリアクションから周囲の人々も二匹を受け入れます。
さらに、二人の乗った自転車がジュリアを助ける前の段階で実はゴールラインを過ぎていたこともわかり、二人はポルトロッソカップの優勝者としても認められます。
(ネタばれ有)感動のエピローグ
優勝賞金で「ベスパ」を購入した二人。しかし、ボロボロの中古なので、それで旅に出るには時間をかけて修理する必要があります。しかし、そうこうしているうちに学校再開の時期になり、ジュリアがジェノバの町に戻る日が来ました。
父のマッシモ、そしてルカたちと別れの挨拶をして汽車に乗り込むジュリア。そして、別れを惜しんでいるルカに対して、アルベルトがさっとジェノバ行きの切符を手渡します。実は、アルベルトはせっかく手に入れた「ベスパ」を売ってしまっていて、そのお金で買ったジェノバ行きの汽車の切符をルカにプレゼントしたのでした。友人として、ルカの幸せを考えた末の行動だったのでしょう。また、ルカの家族もルカの気持ちを尊重して、学校に通うことを認めてくれます。ルカの家族はレースでのルカの姿を見て、少し見ない間にルカが大きく成長したことを知ったのでした。ルカが危険な目に合わないようにと、今までルカの行動を制限してきた両親は、今のルカならこれから待ち受けるであろうどんな困難にも自分の力で立ち向かうことができると思ったのでしょう。
一方で、アルベルトは、レースに向けた住み込みでの特訓中に海での漁を手伝っているうちに、ジュリアの父マッシモとの間で本当の父と子のような愛情を感じていて、これからは二人で暮らすようになります。唯一の友人であったルカと離れ離れになってしまったアルベルトでしたが、一緒に暮らす新しい家族が出来のでした。
ルカが汽車に乗り込み、ジェノバの町に向かう中で映画は終わりエンドロールになりますが、エンドロールでは登場人物たちのその後が描かれます。
映画『あの夏のルカ』のメッセージは?
エンリコ・カサローザ監督はこの作品を「とても個人的な物語」なのだと言います。今作の舞台は架空の町ですが、それは監督自身が育ったイタリアの町がモデルになっているようで、「少年同士の絆が将来を切り開く」というのが大きなテーマであると語っています。しかも、アルベルトというのは監督自身が中学生の頃に出会った友人の名前で、その友人はシャイで地味な生活を送っていた監督の背中を教えてくれた人なのだと言います。このことからも、この物語の主人公ルカは監督の少年時代を投影したキャラクターであることがわかりますね。
また、この物語の中で象徴的に描かれているのが他者や異文化との共存です。世界が分かれてしまっていて、お互いを恐れ嫌い合っている人間とシー・モンスター。しかし、それはお互いを知らないから来るものであり、そういった先入観やイメージを持たずに付き合い始めたルカ&アルベルトとジュリア&マッシモの間には間違いなく友情や愛情が生まれていました。この部分に関しては、ルカの祖母のセリフが最も印象的です。
「あの子(=ルカ)を受け入れない者はいる。でも、受け入れてくれる者もいる。ルカはもうちゃんと見つけているよ。」
そして、このセリフに対応するようにルカが汽車に乗るラストシーンでは、大きく広がる曇り空の間から太陽の光が差す描写で終わります。これは、これから待ち受けているであろう厳しい環境や境遇(=曇り空)の中にも確かに希望(=太陽の光)はあるという情景描写でしょう。
いやー、ピクサーがまたとんでもない作品を作ってくれました。是非、ご覧ください。
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