人生を豊かにする芸術作品③映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第三弾となる今回は、映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』です。これまでに紹介した2作に比べると、名前すら聞いたことがないという方が多いでしょう。しかし、前2作に負けず劣らずの名作です。ジャンルで言うと、ヒューマンドラマとかハートフルコメディですね。あとは主人公一行が旅をしていくロードムービーになります。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)

 

あらすじ(公式HPより引用)

ロサンゼルスにある一流レストランの<総料理長>カール・キャスパーは、メニューにあれこれと口出しするオーナーと対立し、突然店を辞めてしまう。次の仕事を探さなければならない時にマイアミに行った彼は、絶品のキューバサンドイッチと出逢う。その美味しさで人々に喜んでもらう為に、移動販売を始めることに。譲り受けたボロボロのフードトラックを改装し、マイアミ~ニュー・オリンズ~オースティン~ロサンゼルスまで究極のキューバサンドイッチを作り、売る旅がスタートした―。

 

『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』の見どころ

まず全体を通して言うと、主人公がフードトラックでの旅を通して、物理的にも心情的にも離れてしまった子どもとの仲を取り戻す親子愛、主人公カールと元の店での部下(これが本当に良い奴!)との師弟愛、旅する男同士の素敵な友情など、ちょっぴり感動する要素がいくつもあり、間違いなく万人がおすすめできる傑作です。

この映画の大きなテーマは「仕事観」です。主人公カールは、雇われのシェフとしてオーナーからあれこれ口出しされながら自分が本来作りたくない大衆向けの料理を作らされることで高い報酬を得るよりも、収入は不安定ながらも本当に自分が本当に作りたい料理でお客さんを喜ばせることを選び、働いていたレストランを辞め、フードトラック(=日本で言うと屋台?)で再スタートします。つまり、主人公カールは仕事において「安定・収入」よりも「やりがい」を選んだわけです。この選択は、かなり勇気がいることです。

この映画を私は公開当時に劇場で鑑賞して気に入って、Blu-rayも購入して何度も鑑賞しているのですが、今回紹介するにあたって再度観直しました(計5回目くらい?)。しかし、今回見直したことで、今までに観たときにはなかった感慨深さがありました。それは今年2月に大手塾を辞めて、3月から自分の小さい塾で再スタートを切った私自身と、この主人公の境遇が重なったからです。そういう意味で、今作は私にとってより大切な1本となりました。このように自分自身が個人事業主であったり、会社の経営をやっていたりする方には心に響くものがあると思います。

次にSNS(主にTwitterやYouTube)に関する描写が印象的です。今作ではカール自身の不用意なツイートや店の客が撮影したカールの動画が本人の知らないうちに拡散してしまい、周囲はその対応に追われ、カール本人の名誉は著しく傷ついてしまいます。しかしその一方で、カールの息子のツイートによって、カールらのフードトラックでの旅の様子が拡散され、多くの人々の興味を引き、行く先々で行列ができるようになります。このようにSNSの良い面と悪い面、「要はSNSは使い方次第である」というのが示されていることは、いかにも現代っぽいと言えるでしょう。

他にも主人公を演じるジョン・ファヴローが、今作の撮影前にプロの料理人に弟子入りして料理を学んだだけあり、料理のシーンが本格的かつテンポ良く撮影されています。そして、何より映画内で登場する料理がすべておいしそうです。特に、カールらがフードトラックで売り歩くキューバ風のサンドイッチは思わず食べたくなります。しかし、キューバ料理のお店が日本にはあまりなく、その点は残念でならないです。

 

監督、ジョン・ファヴローという男

この映画の監督兼主演はジョン・ファヴローという人です。この名前を聞いてピンとくるのは、一部の映画好きだけでしょうが、この映画は、彼自身のことを知っているとより感動的に感じます。

ジョン・ファヴローの名が世界中に広まったきっかけは、言わずと知れた人気シリーズ『アイアンマン』(2008年)の監督を務め、世界的大ヒットを飛ばしたことでしょう。この『アイアンマン』のヒットから、大手アメコミ出版社のマーベル・コミックが仕掛ける同じ世界観の作品たち、いわゆる「マーベル・シマティック・ユニバース」シリーズが始まりました。具体的には、『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ』『インクレディブル・ハルク』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などの作品がマーベルの作品です。

あと、日本でもマーベル(MARVEL)のロゴが書かれた文房具やカバン、洋服などのアパレル用品が一般的になっていますよね(うちの生徒たちも多く使っています)。このようなグッズの展開も『アイアンマン』の大ヒットがなければ成し得なかったことでしょう。ちなみに今作にも『アイアンマン』の主演俳優のロバート・ダウニー・Jr.が出演しています。

そのジョン・ファヴローですが、その後も続編『アイアンマン2』(2010年)の監督を務め、1作目を超える大ヒットを収めます。2作連続での大ヒットによって映画監督として確実にステップアップしたところでしたが、その直後に監督した大規模映画(100億円以上の予算をかけた映画)『カウボーイ&エイリアン』(2011年)が大惨敗に終わります。映画のクオリティは大不評で、なおかつ周囲の期待するようなヒットにもなりませんでした。

恐らくですが、ジョン・ファヴロー自身にとってもこの映画については不本意な出来だったかと思います(実際に相当ヒドい出来です笑)。そして次の監督作として決まっていた同じく大規模映画での『アイアンマン3』の監督を降板し、一端ハリウッドの最前線から退きます

そして結局、次に監督したのが今作『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』です。この映画は前述の『アイアンマン』シリーズや『カウボーイ&エイリアン』などと比べると、およそ10分の1ほどの予算でつくられた小規模映画です。今作は当初、全米でわずか6館のみでの公開でしたが(ちなみに『アイアンマン2』の公開館数は4380館でした!)、評判が評判を呼び、徐々に公開館数が増えていき、結果的には全米で大ヒットを記録しました。これによって、ジョン・ファヴローは一度急落した自身の映画監督としての評価を完全に取り戻したのでした。

そうです。今作でジョン・ファヴローが演じた、店のオーナーにあれこれ口出しされて自分の思い通りの料理が作れない主人公カールは、大手の映画会社の偉い人たちにあれこれ口出しをされて自分の思い通りの映画が作れなかったジョン・フォヴロー自身の投影なのです。主人公がフードトラックで再出発するのも、小規模映画(=今作『シェフ』~三ツ星フードトラック始めました~)で再出発した自分自身の投影です。実際にこの映画を作る際にジョン・ファヴローが一番気にしたのが、「映画の内容の最終決定権を自分が握る」ことだったようです。そのことからも、今作がジョン・ファヴローの本当に作りたかった作品であることがわかります。ちなみにジョン・ファヴローは前述の通り、『アイアンマン3』の監督オファーを映画会社から受けていましたが、それを断って今作を制作しました。『アイアンマン3』の監督としてのギャラは10億円と言われていました。やはり「お金」ではなく、「やりがい」で仕事を選んだんですね。それが主人公カールに大いに反映されています。

今作の成功で評価を回復したジョン・ファヴローは、ディズニー映画『ジャングル・ブック』(2016年)の実写版で監督を務めて、世界的大ヒットを記録しました。そして今年の夏には最新作として、同じくディズニー映画『ライオン・キング』の実写版が公開される予定です。こちらも楽しみですね。

 

最後に

この映画、全編を通して流れる小気味よいラテン音楽(定番曲のバンドカバーの曲群)も相まって、観ていて終始ワクワクします。それでいて、前述の通り、ストーリーは綺麗で変な刺激の強さがなくホロリと感動できる傑作です。見ていると心が洗われます。

あとは主人公たちが車でアメリカを横断しながら、各地の名産を料理に取り入れていく描写や各地の特色についての登場人物同士の会話を通して、アメリカの地理や歴史の勉強にもなり、子どもから大人まで楽しめ、何度も見返したくなる作品です。

ということで、こちらの作品もフォルテにBlu-rayを置きます。気になる方は是非~。

それでは、また。

 

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人生を豊かにする芸術作品②映画『ズートピア』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

そして前回の映画『ドリーム』(2016年)に続いて、第二弾として紹介するのはディズニー映画『ズートピア』(2016年)です。これは深くて心底面白い映画です。

あらすじ(公式HPより引用)

故郷の田舎町から憧れのズートピアにやってきたウサギのジュディ。彼女の夢は、「立派な警察官になって世界をよりよくする」こと。でも警察官になれるのは、サイやカバなどタフな動物だけ…けれどジュディは、現実の壁に立ち向かいながらも夢をあきらめず、見事“ウサギ初!”の警察官に!しかし、サイやゾウなどの同僚たちが動物たちの連続行方不明事件の捜査に向かう中、ジュディに与えられた任務は駐車違反の取り締まりだった。能力を認めようとしないスイギュウのボゴ署長に憤慨したジュディは、驚異的な仕事ぶりを見せる。

ある日、街で困っているキツネの親子を助けたジュディだが、実は彼らは夢を信じない詐欺師のニック達であった。そんなニックに対して、騙されていたことへ腹を立てながらもジュディはあきらめない。カワウソのオッタートンの行方不明事件が未捜査だと知ると、「私が探します。」と宣言する。ヒツジのベルウェザー副市長の後押しもあり、ボゴ署長はしぶしぶ認めるも、与えられた時間はたった48時間。失敗したらクビで、彼女の夢も消えてしまう…。手がかりがほとんどなく、唯一の頼みの綱は事件の手がかりを握る詐欺師のキツネ、ニックだけ。最も相棒にふさわしくない二人は、互いにダマしダマされながら聞き込み調査を続け、有力情報をたよりにツンドラ・タウンの一台の車にたどり着く。その車内には、行方不明のオッタートンの痕跡が!だが、その車はなんとツンドラ・タウンの闇のボス、ミスター・ビッグの車だった。ジュディとニックは手下に捕らわれるも、なんとか危機を逃れる。しかし、危機を乗り越えた二人を待っていたのは、ズートピアで何かが起こっていることを予感させる衝撃の光景だった!

ボゴたちが到着した時には、その証拠は消えジュディの言葉は誰にも信じてもらえない。しかも、大きな成果を得られないまま約束の48時間まで残り10時間――ついにジュディはボゴから「クビ」を宣告されてしまう。夢を失う危機に落ち込むジュディを救ったのは、ニックの意外な一言だった…。果たして、ジュディの夢を信じる心は楽園の秘密を解き、世界を変えることができるのか?

 

『ズートピア』の見どころ

この映画で扱っているテーマは、前回の『ドリーム』と同じく「差別」と「偏見」です。それでも、これまた前回の『ドリーム』同様、扱っているテーマが重いにもかかわらず、映画自体に暗さを出さずにディズニーが対象とする観客(小さい子どもから大人まで)がエンターテイメントとして十分に楽しめるような工夫がこれでもかというほど盛り込まれている傑作です。むしろ、そういう工夫が本当に緻密なので、小さい子どもはこの「差別」と「偏見」というテーマには気付かずに純粋に楽しめます。そして、数年後にふと思い返したり、映画を観返したりしたときに「あれ、『ズートピア』って意外と深い映画なんじゃない?」と気付くでしょう。行方不明となった動物たちの謎を追っていくサスペンス映画の側面、ジュディとニックの友情の育みを描く相棒映画(バディムービー)の側面、犯人追跡や列車をメインとしたアクション映画の側面などが純粋に楽しめる大きな要素です。その他の見どころもたくさんあるのでネタバレしないように紹介します。

まずはストーリーの素晴らしさ。この映画のストーリーで最も素晴らしい点は、主人公であるウサギのジュディをただの弱者(差別や偏見の被害者)として描かなかったことです。ウサギのジュディは子どもの頃から「ウサギに警察官は無理」と言われて自分の夢をキツネや実の両親から否定されたり、念願の警察官となって出勤しても大した仕事を任されなかったりします。普通の映画であれば、その逆境に負けずに、ジュディが努力や工夫で様々な困難や壁を乗り越えていって、周囲もジュディを認めるようになって大団円、という感じなると思うのです。しかし、この映画ではそのジュディの中にも実は他の動物に対して偏見があります。そう、つまり「誰の中にも差別意識や偏見は存在する」ということです。その差別意識や偏見に気づいたときにどう向き合うのか、そしてジュディはどう成長するのか、というのが大きなテーマであり、見どころの一つです。あとはお手本ともいえる伏線の回収も見事です。伏線の回収とは、映画の前半で登場したアイテムやセリフが後半のクライマックスで活かされるということです。良い映画や小説はたいてい伏線の張り方が上手いものです。こういう良い構造の作品に触れることで、自分自身の表現技術(作文とか)にそれらを活かすことが出来るので、子どもたちには良い映画や小説にたくさん触れてほしいと思います。

次に純粋な映像的な楽しさです。動物たちの住む街・ズートピアの世界観は見ているだけでわくわくします。これは予告編の時点でも心躍りました。その根本にあるのは動物たちのリアルなサイズ感の描写です。これは今までの動物を擬人化した作品(ディズニー作品や非ディズニー作品問わず。)とは明らかに違う点で、それぞれの動物のサイズ感(動物同士のサイズ比)がとてもリアルなのです。キリンやゾウは本当に大きく描かれ、ウサギやネズミは本当に小さく描かれています。そしてだからこそ、列車のドアが大きい動物用と小さい動物用に分かれていたり、他の動物からそれぞれの動物を見たときの視点が描かれていたりと、面白い描写が盛りだくさんです。しかもそれぞれの動物の動きや表情がそれぞれ特徴的で、映画を何度も見返して確認したくなります。1度目は全体を楽しんで、2度目以降は「次は動物の歩き方、走り方に注目しよう!」「次は細かい背景に注目しよう!」と言った具合に何度も楽しめます。

あとは映画内のあちこちに散りばめられた動物ギャグや過去の映画のパロディ・オマージュの数々です。これは大人ほど楽しめるかも知れません。個人的にオススメは免許センターで働くナマケモノのギャグと『アナと雪の女王』『ゴッドファーザー』のオマージュです。この感じは近年のディズニー映画ではわりとある方なのですが、それらの中でも『ズートピア』は群を抜いて攻めています。マフィア映画の『ゴッドファーザー』のオマージュは、元の映画を知っていなくでも楽しめるギャグであり、それでいてストーリー的にも重要なシーンでもあります。

 

『ズートピア』に込められたメッセージ

近年のディズニー映画は、ストーリー(脚本)が秀逸で、なおかつ作品に込められたメッセージが本当に良いのです。この秘密については、後で触れています。

さて、この映画に込められたメッセージですが、

「誰の中にも差別意識や偏見はあるもの。ただ、それは自分と向き合い、様々な経験を経ることで、変えることができる。」「自分と他者の違いを認め、お互いに尊重し合うことで、個人はもとより世界全体がより豊かになる。」

ということでしょう。これって私たちの住む現実社会でも全く同じですよね。そして、一人ひとりのそういう意識や態度、行動が社会を、世界を変えていくということでしょう。

 

名作を連発する近年のディズニーアニメの秘密

ここからは余談です。近年、正確には2008年作品の『ボルト』という作品以降、ディズニー制作のアニメ映画はそのクオリティが圧倒的に高くなっています。それ以前は、過去の名作のテキトーな続編を乱発し、さらにそれらのクオリティが軒並み酷すぎるという状態で、完全に低迷していて、一時期はディズニーアニメスタジオが閉鎖直前までいっていました。しかし、『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』などの鬼クオリティの作品で有名なピクサーのトップ、ジョン・ラセターという天才アニメーターが2006年にディズニーアニメスタジオのトップに就任しました。そして、それまでの低レベルの作品の生産体制を一新し、ほぼ外れ作品のないピクサーと同じ方式で作品を作ることになります。その一発目が2008年の『ボルト』なのです。

さて、ピクサーの作品生産の方式とは?それは「ブレイントラスト」と呼ばれる会議によるストーリー(脚本)をブラッシュアップ作業です。「ブレイントラスト」とは、その作品の監督、プロデューサーだけでなく、今までに名作を数多く手がけてきた映画監督やスタッフが多数参加し、客観的に作品(試作段階)を評価し、遠慮をせずに意見を言い合う会議です。言うならば、天才がたくさん集まって意見を交換し合って、より良いストーリー(脚本)を作り上げるのです。さらに、アニメとしてのクオリティを上げるために実際に描く対象を徹底的にリサーチするのもピクサーと同じ方式です。今回のズートピアに際しても、制作陣は実際にアフリカに野生の動物を観に行ったり、動物園で飼育係の人に動物の特徴を聞いたりと、時間と手間をかけて行っており、それが作品中の登場動物の細かい動きや表情に大いに反映されています。

この方式を取り入れてからのディズニーアニメスタジオ制作の映画はピクサー並みにクオリティが高い作品ばかりです。有名なところだと『アナと雪の女王』『ベイマックス』『シュガーラッシュ』『塔の上のラプンツェル』などですね。どれも、ストーリーとメッセージが抜群に良い作品ばかりです。今後、またこれらのディズニー作品はここで取り上げたいと思います。

 

最後に

ということで、この『ズートピア』はアニメ作品として大傑作です。ほぼ非の打ちどころがないです。むしろアニメだからこそ、人間の現実社会を投影しつつ(このような手法をメタファーと言います。)、きっちり万人が楽しめる作品になっています。是非、楽しんでください。こちらもフォルテにはDVD/Blu-rayを置いておくので、観たいフォルテ生は上村まで声をかけてください。

今回はここまで。それでは、また。

人生を豊かにする芸術作品①映画『ドリーム』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

今回は新シリーズで、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

そして今回記念すべき第一弾として紹介するのは映画『ドリーム』(2016年)です。これ、本当に超絶オススメですよ!

あらすじ(公式HPより引用)

1961年、アメリカはソ連との熾烈な宇宙開発競争を繰り広げていた。NASAのラングレー研究所には、ロケットの打ち上げに欠かせない“計算”を行う優秀な黒人女性たちのグループがあった。そのひとり、天才的な数学者キャサリンは宇宙特別研究本部のメンバーに配属されるが、そこは白人男性ばかりの職場で劣悪な環境だった。仲の良い同僚で、管理職への昇進を願うドロシー、エンジニアを目指すメアリーも、理不尽な障害にキャリアアップを阻まれていた。それでも仕事と家庭を両立させ夢を追い続けた3人は、国家的な一大プロジェクトに貢献するため自らの手で新たな扉を開いていくのだった……。

 

前提となる知識(時代背景)

小中学生がこの映画を観る上で、事前に知っておいた方が良いことをいくつか紹介しますね。

冷戦

この映画の舞台となっている1961年は、アメリカを中心とする資本主義国家とソ連(現在のロシアを中心とする国々による連邦国家)を中心とする社会主義国家が対立していました。とはいえ、アメリカとソ連は、直接的な戦火を交えた対立ではありませんでした。このような対立を冷戦と呼びます。冷戦は第二次世界大戦の終戦直後(1945年)からソ連解体(1991年)まで続きました。この対立の中で、アメリカとソ連の間では激しい宇宙開発競争が展開されていたのです。ちなみに、この宇宙開発の技術は兵器開発にもつながるので、両国はただの宇宙へのロマンを求めていたのではなく、国家の存亡をかけて宇宙開発競争をしていたのでした。

 

2つの差別問題

この映画における一つのテーマは差別で、「女性差別」と「黒人に対する人種差別」の2つがありました。当時、女性は男性に比べ社会的地位が今とは比べ物にならないほど低かったのです。そしてアメリカの多くを占めていた白人に対して、少数派である黒人は歴史的背景もあって自由や権利がかなり制限されていたのです。この映画でも描かれていますが、仕事場、図書館、バスの座席、トイレすら白人用と黒人用で分かれていたほどです。特に今回のNASAの施設(ラングレー研究所)があるバージニア州はアメリカの南部に位置し、黒人差別が酷い地域でした。

 

マーキュリー計画

この映画の舞台となる時期は、直前にソ連が人類初の宇宙飛行に成功しており、先を越されてしまったアメリカは国家を挙げて、早急に有人宇宙飛行を成功させる必要がありました。ちなみにこの時にソ連で宇宙飛行に成功したのが「地球は青かった」という言葉で有名なガガーリンという宇宙飛行士です。そこで、アメリカは地球の周りをまわる軌道上に宇宙飛行士を送り、安全に地球に帰還させる有人宇宙飛行計画を発表します。それが「マーキュリー計画」です。その計画に計算係として動員されたのが今回の主人公たちです。ちなみに同じようにこのマーキュリー計画を、宇宙飛行士に焦点を当てて描いた『ライトスタッフ』(1983年)という映画もあり、こちらも良い映画です。

 

『ドリーム』の注目すべきポイント

この映画を観て、まず驚くのが1960年代にスペースシャトルの発射や着水の軌道の計算を人の手(しかも多くの黒人女性が登用されていた!)でやっていたということです。この計算をする人のことを「コンピューター(computer)」と呼んでいました。computeというのが「計算する」という意味の単語ですから、「計算する人」って意味ですね(YouTubeとYouTuberみたいな関係ですね)。そうです、今ではコンピューターといえば、パソコンとかの「機械(コンピューターマシーン)」を指しますが、元々は「人」を指す言葉だったんですね。劇中に登場する最新のコンピューター(IBM)が本格的に導入されることによって、コンピューターによる計算が中心になっていきます。

この映画の魅力の一つは、登場人物たちの変化・成長です。最初は主人公たちのことを「黒人」「女」として見下していたような態度をとっていたNASAの職員たちは、彼女たちの仕事ぶりや資質を間近で目にするうちに段々と彼女たちのことを認めるようになっていき、彼女たちへの態度にも変化が生まれます。その最たるものが、この映画の最後のシーン。ほんの何気ない日常の動作なのですが、そこまでのストーリーを思い返すと涙が出るほど素晴らしいシーンです。同じように主人公の家族ですら、差別とまではいかなくても「女性」に対する偏見があったことが描かれています。「そういう仕事は女性の君がすべきではない」「女性なんだからそんな仕事に就くのは無理だよ」とかです。しかも、それを言う人に決して悪気はないのです。つまり、差別や偏見は無意識のうちにもその人に根付いていることがあるということです。ただ、その家族の変化・成長が描かれていて、これまたとても感動的です。

一方でNASA職員の中にも、肌の色や性別に拘わらず彼女たちの能力をしっかりと評価して重要な仕事を任せるプロジェクトのリーダーや中間管理職もいます。そして、人種・性別・経歴を超えて皆がチームとなって難題に取り組むことで、素晴らしい成果を上げることができるのです。これは監督自身もテーマの一つだと語っており、主人公の3名の女性たちは常に「チーム」を強調しています。この主人公の女性たちは実在の人物が完全にモデルになっているのですが、その中で唯一ご存命のキャサリン・ゴーブル・ジョンソンさん(なんと現在100歳!)もインタビューの際に「あなたの功績は素晴らしいですね。」と言われたのに対して、「私はあくまでメンバーの一員です。みんなで成し遂げたのです。」というスタンスの発言をしていたと映画のパンフレットに載っていました。また、劇中でもドロシーがキャサリンとメアリーが順調にステップアップする中、自分だけ前進できていない状況を2人に愚痴りますが、その時にも「でも、勘違いしないで。二人の前進は、私たちチームの前進よ。」と言っています。

さらにこの映画の優れている点は、「反復法」の素晴らしさです。一般的には国語の文章の表現技法ですが、この映画内では特定の行動が劇中で何度も繰り返されます。それが主人公の過去と現在のつながりを示していたり、同じ行動の中にある小さな変化が登場人物の変化・成長を表していたりするのです。これは映画ならではの素晴らしい映像表現です。これらを変に登場人物が下手なセリフで言ってしまったり、小説で何の工夫もなく文字に起こしてしまったりすると野暮ったくなって台無しです。。

最後にこの映画をより高いレベルに昇華しているのが、ファレル・ウィリアムスによる音楽です。映画全体に配された、映画の舞台となる60年代風のソウルミュージックの数々は日本語で端的に表すと「ごきげん」です。差別をテーマにしておきながら、映画自体が暗くならずにポジティブな雰囲気で進み、観終わった後に爽快感が残るのは、間違いなくこの音楽の効果に他なりません。

 

映画のタイトルに関して

この映画、原題(アメリカでの正式タイトル)は『Hidden Figures』です。hidden(ヒドゥン)は「隠れた、隠された」という意味で、figure(フィギュア)は「姿」「数字」「計算」などの意味があります。つまり、このタイトルは主人公の3名の女性たち自身のことであり、主人公が計算したマーキュリー計画における軌道計算のことを指しているんですね。上手いタイトルです。実際に「マーキュリー計画の裏には、黒人女性たちの活躍があった」という事実はこの映画の原作となる本が出版されるまで一般人はおろか、現在NASAで働く職員にも知られていなかった話だそうです。

ちなみに、邦題は当初、『ドリーム ~私たちのアポロ計画~』というタイトルでした。アポロ計画とはご存知の通り、月面着陸を目指したアメリカの宇宙計画のなので、今回のマーキュリー計画とは別物です。なので、流石に多方面から批判が殺到し、この副題は削除され『ドリーム』の邦題で公開されました。確かに多くの日本人が宇宙開発と聞いて真っ先に思い浮かぶのがアポロ計画でしょうから、気持ちはわからなくはないですけどね。

ただ、この『ドリーム』というタイトルも個人的にはどうかなと思います。というのも、この映画の大事なところは、「主人公たちが思い描いた大きな夢を実現する」というよりは、「主人公たちの持っている能力や資質に対して正当な評価を得る」物語なので。当時、「アメリカが有人宇宙飛行を成功させる」というのも国民の「夢」というよりは、国家の威信をかけた「政策」でしたので、やはり原題に沿った気の利いた邦題が付けられていれば良かったのにな、と思います。

 

最後に

とはいえ、もちろんイケてない邦題と映画自体のクオリティは全く無関係です。この映画は控えめに言っても、名作中の名作です。何なら、道徳の時間にでも全小中学校で上映して子どもたちに見せるべき作品です。子どもから大人までほぼ確実に楽しめる本当に良い作品なので、今回第一弾として取り上げました。

人種や性別の壁にぶつかっても、自分の力や可能性を信じて、必死にもがくことで乗り越えようとする主人公たちの姿を見ていると、誰しもが胸に熱いものを感じるでしょう。そして、今後同じように自分が壁にぶつかっても、必死にもがいて乗り越えてやろうという気持ちになれるはずです。またこのような差別を扱った作品を通して、歴史を知り、人の気持ちや痛みを想像することが出来るようにもなれると思いいます。

フォルテでは本作のDVDを教室に置くので、もしフォルテ生で「観てみたいなぁ。」という人がいたら上村に声をかけてくださいね。いつでもお貸ししますよ♪(上村自身は個人的にブルーレイを持っているので、ブルーレイ希望の場合も対応しますー。)