人生を豊かにする芸術作品⑥映画『アルプススタンドのはしの方』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第六弾となる今回は、青春映画の『アルプススタンドのはしの方』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)
第五弾:映画『Us(アス)』(ココをクリック)

 

あらすじ

高校野球・夏の甲子園一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席(アルプススタンド)の端っこで見つめる冴えない4人。最初から「しょうがない」と勝負を諦めている演劇部の安田と田宮、ベンチウォーマーの矢野をバカにする元野球部の藤野、野球部のエース園田に密かな思いを寄せる帰宅部の宮下の4人。せっかくの夏休みなのに、全校応援と言うことで仕方なく応援席に座る4人だったが、それぞれの思いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていく・・・。

 

実際に観てきた感想

正直、公開されるまで本作を全く知らなかったのですが、ふと流れてきたTwitterでの評価やレビューサイトでの評価が非常に高く、私自身が野球好きということもあり、気になって観に行くことにしました。

この近くで上映しているのが桜木町のブルク13だけで、しかも1日に2回しか上映していないので、スケジュールをうまく調整して先週の木曜日に観てきました。

そして見終わった後には、率直に「良い映画見たな。」という思いました。本当によくできた脚本で、映画序盤・中盤の伏線がどんどん回収されていき、最後にはすっと爽やかに終わる(特に終わり方は最高!!)。エンドロールが始まった時に私が感じたのは、まるで伊坂幸太郎の小説を読み終えたときのような爽快感。それと同時に胸の奥から熱い思いも湧き上がってきました

 

この映画の特徴

この映画は、いわゆる野球映画でありながら、実際に野球をしているシーンは1つも出てきません。カメラは常に応援席を映していて、アナウンスや効果音、そして観客のセリフや様子が試合の状況を伝える仕組みになっています。

基本的に画面に映るのは球場の応援席とコンコース(お店やトイレがある通路)のみです。このように極端に舞台をシンプルにしているため、上映時間も75分とかなりタイトになっています。

 

この映画が描いているもの

世の中は、一部の「持っている人」と、その他大半の「持っていない人」とで構成されていると思うのですが、主人公の4人は確実に「持っていない人」たち。最近の言い方でいうと、いわゆる「陰キャラ(陰キャ)」の子たちです。

しかし、青春とは何も、「持っている人」だけが恋をしたり、何かに熱くなったりすることを指すわけではありません。一般の青春映画では、そういった部分を中心に描くでしょうが、「持っていない人」にもいろいろな悩みはあるし、吹っ切りたい思いもあるわけで、そういった部分を上手く描いているのがこの映画です。

また、主人公たち以外にも、今では絶滅危惧種とも言える「熱血」英語教師が出てきます。彼はしきりに「みんなで心を一つにして応援するんだ!」「腹から声を出せ!」と暑苦しいことを叫んでいるので、ただの能天気な人なのかと思いきや、実は彼も心に大きな闇を抱えていることがだんだんとわかってきます。そんな彼がつぶやくのが「Don’t let it bring you down.(へこたれちゃダメだ。)」です。このセリフ自体は、何気なく出てくるのですが、この映画の持つ大きなメッセージの1つでしょう。彼の心の闇や悩みを知った上で、このセリフを思い返すと思わず泣けてきます。

 

最後に

最初、主人公たちは何かと「しょうがない」と自分に言い聞かせて、諦めてしまいます。部員のインフルエンザによって目標としていた演劇の大きな大会に参加できなかったこと、野球部で強力なエースの存在によって自分が試合に全然出られなかったこと、模試の成績で吹奏楽部の部長に負けて学年2位になってしまったこと。

この「しょうがない」は、ダメな自分を納得させる魔法の言葉であると同時に、自分の限界を勝手に決めてしまう呪いの言葉でもあります

主人公たちは、勝ち目のない強豪校に挑む野球部の選手たちの頑張る姿や、それを吹奏楽部の子たちが懸命に演奏する姿を見て、この「しょうがない」を捨てていきます。この「持っていない人」の成長には、年代や性別に関係なく多くの人が共感できるでしょう。

そして、この映画を見終わった後には「『しょうがない』なんてことはない。どんなにきつい状況でも、とにかく全力でぶつかろう。」という熱い気持ちになれます。

この映画は控えめに言っても、青春映画の大傑作だと思います。私はこれから先、毎年夏になると、「アルプススタンドのはしの方のあいつらにまた会いたいなー」と思うでしょう。それくらい大好きな映画になりました(パンフレットや特集記事の載っている映画秘宝も買いました!)。

ただでさえコロナの影響で映画館に行きにくくなっている中で、さらに上映されている映画館も少ないのが非常に残念ですが、1人でも多くの人にこの素晴らしい映画を見てほしいです。

 

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人生を豊かにする芸術作品⑤映画『Us(アス)』

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第五弾となる今回は、ホラー映画の『Us(アス)』です。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)
第四弾:映画『トイ・ストーリー4』(ココをクリック)

現在公開中の映画『アス(Us)』を見てきた。

現在公開中(と言いつつ、かなり多くの劇場が既に公開終了に…)の映画『アス(Us)』を桜木町のブルク13で先日観てきました。この作品、日本では9月6日に公開されたので、公開してから既に4週間近く経ってますが、個人的にはずっと前から観たかった作品でした。なぜかというと、この作品の監督である、ジョーダン・ピール監督の前作『ゲット・アウト』(2017年)が大大大大傑作だったからです。ジョーダン・ピール監督は初監督作にして、『ゲット・アウト』でアカデミー脚本賞を受賞し、一気に名を上げました。かく言う私も、『ゲット・アウト』を公開当時に劇場で観て、かなりヤラれたので、ジョーダン・ピール監督の次の作品も絶対に劇場で観ようと思っていました。

 

映画『アス(Us)』のあらすじ

アデレードは夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンと共に夏休みを過ごすため、幼少期に住んでいた、カリフォルニア州サンタクルーズの家を訪れる。早速、友人たちと一緒にビーチへ行くが、不気味な偶然に見舞われたことで、過去の原因不明で未解決なトラウマがフラッシュバックする。やがて、家族の身に恐ろしいことがことが起こるという妄想を強めていくアデレード。その夜、家の前に自分たちとそっくりな”わたしたち”がやってくる・・・。

(公式ホームページより)

 

実際に見た感想

今回の『アス(Us)』、約半年前に公開されていたアメリカでは好評で、大手レビューサイトのRotten Tomatoesでは批評家の支持率が93%でした。そして、嫌でも期待が高まる中で鑑賞しましたが、やはり前評判通り、かなりの傑作でした。

この作品は、黒人一家の別荘に自分たちと全く同じような見た目の家族(劇中で”テザード”と呼ばれます。)が侵入してくる話で、いわゆる『ホーム・アローン』などに代表される“インベージョン物”と呼ばれる定型です。ただし、後半は話が拡大していき、最終的にはゾンビ映画に近い形になっていきます。実際に主人公の黒人一家は、自分たちと見た目がそっくりなテザードたちと、ゾンビ映画で生き残った人間とゾンビが戦うがごとく、必死に戦っていきます。これが中盤の見せ場になっているわけですが、いかにもホラー映画な画面が続く中でも、時折笑えるシーンが入り込んでおり、このバランス感覚が最高です。これは元々コメディアン出身であるジョーダン・ピール監督の作風と言えるでしょう。

そして、最後の展開。もちろん、ここではネタバレはしたくないので書きませんが、思わず「えっ、マジ?」というオチがあります。そして、そのオチから考えると、そこまでの間に数々の伏線と言える描写があり、すべてはそのオチに繋がっていたことに気づきます。そして、「あれ?もしかしたら、他にも見落としている伏線があるのでは?」と思い、二度、三度と見たくなる作品です。良い映画って大抵はそういうものですね。

また、個人的には見た後に何とも言えないモヤモヤする感覚が強くあったので、劇場パンフレットを買って読んだり、You Tubeでのレビュー動画をいくつも観たりして、モヤモヤを解消しました。こういう、自分が感じたモヤモヤは、その都度調べて解決することって勉強でも大事です。個人的な経験からすると、そういうのって後々になってまた必要になってきて、結局「あの時調べておけばよかったー!」ってなりますから。模試の解き直しもそうです。同じような知識が問われたときに、以前の解き直しがイケてないと、同じ間違えをします。大事なので、もう一度言います。自分が感じたモヤモヤは、その都度調べて解決しましょう

 

良いホラー映画の特徴

この『アス(Us)』に限らず、良いホラー映画には共通の特徴があると個人的に思っていて、それは直接的または間接的に”現実社会の問題点を映し出している”という点です。例えば、『Us(アス)』で言えば、映画内で直接セリフや字幕で説明はありませんが、明らかにアメリカ国内またが世界で広がる経済格差の問題を取り上げている作品です。それは劇中に「ハンドアクロスアメリカ」という1980年代のイベントのCMやそれを連想させるテザードたちの動きから示唆されています。

過去には、まさに当時起こっていた戦争、黒人の権利上昇に対する白人側から見た恐怖、大手チェーンの台頭による地域経済の破壊など、リアルタイムに世界で起きている事柄や問題意識がホラー映画に反映されることが多々ありました。ホラー映画ではないですが、怪獣映画の金字塔『ゴジラ』も元々は原爆や戦争といった、当時の日本人が最も恐れていたものが反映されていました。間接的であれ、こういった「現実感」があるからこそ、観客は目の前で起きていることが単なる他人事と思えず、その映画に引き込まれるわけです。

また、こういった表のストーリーの裏に作り手の問題意識を描いたり、別の何かを象徴させることをメタファーと言います。映画にしろ小説にしろ、それぞれの作品内のメタファーを読み取ることは、物事の本質を読み取る力につながります。ですから、優れた映画や小説などの芸術作品(一般的にはジャンル映画として低くみられている節のあるホラー映画や怪獣映画であっても!)を単に消費するだけでなく、こちらの意識次第では絶好の学びの機会にもなるのです。

 

最後に

つまり、何を言わんとしているかと言うと、学びの機会はどこにでも転がっているんだ、ということです。それが映画にしろ、本にしろ、音楽にしろ、ゲームにしろ、スポーツにしろ。なので、何かに夢中になることはとても良いことです。そのバランスさえ間違えなければ。ですから、色々ものに興味を持って、そこからたくさん学びましょう。

そして、これを書いた後に気づいたのですが、映画『Us(アス)』はどうやらR-15指定らしく、小中学生は今すぐには観られないようです(笑)。やってしまいました。ただ、せっかく書いたのをお蔵入りにするのがもったいないので、今回の作品云々に留まらず、とても大切なことを書いているのであえて公開します。なので、気になる人は高校生以上になってから観てね。

今回はこんなところで。また、更新しますね。ではまた。

 

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小学生向けの「読書会」という取り組み

こんにちは、フォルテの文系担当の上村です。

今回は、7月中に行った小学生(小5・6)の国語の授業内での読書会についてです。

 

読書会」という取り組み 

小学生の国語の授業について、個人的にずっとやってみたかったのがこの「読書会」です。

前職の大手塾時代は、既定のカリキュラムや月末に行うテストが存在しているので、授業内について教室単位や講師個人による裁量の幅は非常に狭くなります(当然ながら、それでも講師の力量によって授業のクオリティは大きく変わります)。ただ、これは大手塾としては当然の指針だと思います。しかも、私が教室長をしていた教室では、小学生の高学年の人数は一学年で20名以上(多い時は40名近く)いましたので、なおさら自分自身の裁量で様々な取り組みを行うのはかなり難しい環境でした。

当時の私自身の力不足も十分あるのですが、このような環境の中で事業部共通のカリキュラムを概ねこなす授業のあり方に対して、モヤモヤした感覚を持っていました。そんな中で、様々な他塾の取り組みを個人的に調べていくと、とても魅力的な取り組みをしている塾が多くあることを知りました。

中でも最も衝撃を受けたのは小田原の慧真館(敬称略)の取り組みでした。「読書会」について書かれているこの記事には本当に影響を受けました。そして、フォルテ開校前に慧真館を見学させていただいた時にも、私が岸本先生に最も熱心に伺ったのがこの「読書会」の件でした。そして、それに対して上記の記事同様、包み隠さず真摯にお答えいただきました。本当にありがたかったです。

そしてフォルテでは、7月・12月・3月は月末の確認テストをしないため、その時期を利用して「読書会」しようと思いました。

 

課題作品の選定

記念すべき第一回となる今回、課題作品として選んだのは、重松清『日曜日の夕刊』『卒業ホームラン』などに収録されている、『さかあがりの神様』です。こちら、中学受験の入試問題や多くの塾用教材でも使われている、いわゆる定番作品です。この文章に限らず、重松清の作品はその特筆すべき巧みな心情描写ゆえに、やはり多くの入試問題や教材に使われていますね。

 実際に、今回も早い段階で重松清の作品にしようとは決めてはいたものの、具体的にどの作品にするかは結構迷いました。そして、選定のために春先だけで重松清の本を5~6冊読みました。その中でたまたま読んでいた『せんせい』収録の『泣くな赤鬼』が今年の6月に堤真一主演で映画化するというサプライズニュースもありました(ただ、公開館が少ない上にテスト対策真っただ中という時期だったので見れず・・・、そして内容が内容なだけに初回にしては重すぎるので課題作品にもしませんでした)。そして最終的に『さかあがりの神様』に落ち着いたのは、完全に個人的な好みですが、ストーリーと文章構成が巧みで、いわゆる「よくできた作品」だと思ったからです。

 

事前準備、そして「読書会」実施

フォルテでは、小学生の国語の授業は週1回なので、2週に分けて行いました(7月中の授業自体は3回ありましたが、うち1回は模擬試験の解説に当てたため)。また、初めての試みでもあったので、保護者の方にも事前に内容説明のメールを送信しました。

 また、小学5・6年生にとっては難しい言葉も多々あるので、作中に登場する難しめの言葉をまとめた語彙シート(文庫本で35ページ分で、40以上の語彙を掲載しました。)や内容確認のためのワークシートを作成しました。そして、全員分の文庫本を用意し(といってもブックオフで飼ったのですが)、初回授業の1週間前に配布して読んできてもらいことにしました。

 1週目は、ストーリーや登場人物の確認を、前述のワークシートを用いて行いました。普段の授業以上に1つの物語を詳しく扱うため、その分子どもごとの理解の差が大きく表れます。これは既出の慧真館の岸本先生の記事内にもある通り、子どもによっては「話の筋」「登場人物の相関関係」「心情の変化」が驚くほど読み取れていないのです。前職の大手塾時代から、夏休みの期間中に「読書感想文講座」を塾生向けに実施していて、その中で「絶対、そういう話じゃないだろ!」「この場面を読んで、この心情の変化はおかしくないか?」などと思うことは多かったのですが、そのときの感覚が思い出されて、妙に腑に落ちました。これは闇雲に本を読んだところで、最初は意識して読み取ろうとしないと、絶対に身につかないものだなと思います。

 2週目は、重松清節とも言える心情描写の読み取りと、この物語を読んで各々が考えたことや学んだことの書き出しを行いました。これら、特に後者は子どもたちが非常に苦手とするところであり、というのも今まであまり指導されてこなかったところだと思います。ただ、こういった部分とさらには自分自身の経験を結びつけるという作業がしっかりできないと、多くの子どもにとって夏休みの宿題で一番の難敵である読書感想文も出来ません(正確に言うと、仮に書き終えたとしても、多くの場合は感想文の体をなしていないので、「出来た」とは言えません。)。そう考えると、夏休みの課題で提出される読書感想文の大半は感想文の体をなしていないのでは?と思って、小学校の先生方の苦労がわかります。まぁ、夏休み前にある程度指導すればよい話かもしれませんが。

 

やってみての感想

結論から言うと、今回初めて「読書会」をやってみて本当に良かったです。やっている中で個人的にとても嬉しかったのが、保護者の方も一緒に作品を読んでくれて、作品について親子で会話をした、という報告を複数の子どもから聞いたことです(そして保護者の方にも今回の話が好評のようで、それも嬉しかったです)。

今回の取り組みはもちろん、子どもたちに読書の習慣をつけてほしいとか、語彙力・読解力を養ってほしいという思いからやっているのですが、それ以上に子どもたちが保護者の方と作品について語り合うことの方がずっと価値があると思います。そこでは、子どもたちの感じたことや考えたことを聞いてあげてほしいですし、逆に保護者の方が何を感じたのかを伝えてほしいです。これが出来れば、語彙力や読解力も副産物についてくると思います。また今までの経験として、このような会話がある良い親子関係を築いている家庭の子は成績が伸びやすい印象もあります。

一方、運営的な面でも上手くいったところもあれば、もっとこうすれば良かったと思う部分もあり、今後どんどんブラッシュアップしていければと思います。

この「読書会」、次回は12月に実施予定です。そこに向けてゆるりとではありますが課題作品を選定中です。

今回は以上です。ではまた!

 

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人生を豊かにする芸術作品④映画『トイ・ストーリー4』

こんばんは、フォルテの文系担当の上村です。今回は、この夏のオススメ映画についてです。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第四弾となる今回は、説明不要の大人気シリーズ『トイ・ストーリー』の4作目、『トイ・ストーリー4』です。この夏、最重要作品であろうことは誰もが認めるところでしょう。前作『トイ・ストーリー3』はラストがもう完璧で、理想的なシリーズ完結作だと思われていたが、予想に反してつくられた今作。その出来はいかに・・・。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)
第三弾:映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』(ココをクリック)

あらすじ(公式HPより引用)

おもちゃにとって大切なことは子供のそばにいること”。新たな持ち主ボニーを見守るウッディ、バズら仲間たちの前に現れたのは、彼女の一番のお気に入りで手作りおもちゃのフォーキー。しかし、彼は自分をゴミだと思い込み逃げ出してしまう。ボニーのためにフォーキーを探す冒険に出たウッディは、一度も愛されたことのないおもちゃや、かつての仲間ボーとの運命的な出会いを果たす。そしてたどり着いたのは見たことのない新しい世界だった。最後にウッディが選んだ驚くべき決断とは

 

そもそも『トイ・ストーリー』シリーズとは

『トイ・ストーリー』は、アンディ少年のおもちゃである、カウボーイ人形のウッディと、宇宙ヒーローのプラスチック製おもちゃのバズ・ライトイヤーを主人公とした、擬人化されたおもちゃたちの物語です。今まで公開されたシリーズ3作品は、日本も含め全世界で特大ヒットを記録し、今やディズニー関連だけでなく、世界で最も人気のあるアニメシリーズと言えるでしょう。

そして、このシリーズの1作目『トイ・ストーリー』は、実は映画史上に残る最重要作品です。というのも、今や長編アニメ映画の主流となっているフルCGという形式ですが、これを世界で初めて実現したのが『トイ・ストーリー』なのです。それまでの主流は日本であれば、ジブリ作品に代表される手書きアニメでした。実際にディズニーでも『アラジン』『ライオンキング』『美女と野獣』などの90年代の人気作品は手書きアニメですよね。やはり当時は今ほどCG技術が発達していなかったので、短編ならまだしも長編でそれを見続けるのはかなり厳しかったのですね。

ですから、『トイ・ストーリー』は制作段階から、懐疑的な見方が多く、各おもちゃ会社も自社のキャラクターを『トイ・ストーリー』に出演させることに非協力的でした。2作目から登場しているバービー人形もその1つでした。また、ある程度制作が進んだ時点でのストーリーの大幅な練り直しや資金の調達などの面で前途多難でした。それでも制作陣の絶え間ない努力によって極上の脚本が完成しました。

そんな紆余曲折あって1995年に公開された『トイ・ストーリー』は、世界中で大ヒット(その年の全米興行収入年間1位)を記録し、それまでの世界の常識を覆したのでした。それくらい凄い作品なのです。

 

ピクサーアニメーションスタジオとは

この『トイ・ストーリー』はピクサーアニメーションスタジオ(通称”ピクサー”)制作の長編映画第1弾です。ピクサー作品は、その後も『ファインディング・ニモ』『モンスターズ・インク』『カーズ』『ミスターインクレディブル』など、ハイクオリティな作品を連発している、世界最高峰のクリエイター集団です。

ピクサー作品のクオリティを支えるのは、『ズートピア』の記事でも紹介した通り、天才たちが寄ってたかってストーリーをより良くするために意見を出し合う「ブレイントラスト方式」というピクサー独自の会議形態です。この方式があるからこそ、ピクサー作品は、子どもから大人まで楽しめる素晴らしい物語になるのです。

その中心人物はピクサー創設当時からの中心メンバーであり、自身が天才アニメーターであるジョン・ラセターでした(現在はピクサーを退社)。ジョン・ラセターは、ジブリの宮崎駿を師匠として尊敬しており、彼が作ってきた作品には宮崎駿作品の影響が随所に見られます。さらに、『千と千尋の神隠し』のアメリカ公開時に、宣伝活動や翻訳の指揮をとるなど尽力し、同作のアカデミー賞受賞に大きく貢献しました。

今は諸々の事情で退社していますが、ピクサーには確実のこのジョン・ラセターのDNAが息づいています。

 

『トイ・ストーリー4』の見どころは?

私自身、『トイ・ストーリー』シリーズの大ファンで、すべて劇場で鑑賞していますし、ブルーレイも所有しています。そして、前述の通り、『トイ・ストーリー3』はシリーズの完結編として完璧な作品でした。実際に、ピクサー側も当初は続編を作るつもりはなかったとのことでした。さらに、制作途中で中心人物のジョン・ラセターがピクサーを退社するアクシデントもありました。なので、今回の『トイ・ストーリー4』は必然性や作品のクオリティを不安視する声がありました。

そして公開された今作。結論から言うと、これまでのシリーズ作品同様、個人的には大好きな作品でした。そもそも『トイ・ストーリー』というのは、単におもちゃが主人公というだけでなく、「子どもにエンターテイメントを提供する」人たち(=おもちゃたち)の話です。なので、子どもよりも大人の方が主人公たちに感情移入がしやすいシリーズになっています。ただ、それだけでなく子供も退屈しないようにアクションシーン、ギャグシーン、ドラマシーンなどふんだんに盛り込まれています。

まず、冒頭のシーンから物語に引き込まれます。舞台は今から9年前、ウッディたちがまだアンディ少年の家にいた頃です。大雨が降る中、庭の溝にはまってしまった車のおもちゃをウッディたちが協力して救出します。おもちゃたちの息の合った連携プレーは見ていて気持ちよく、また救出後、アンディ少年に家に残るウッディと他の子の家にもらわれていくボー・ピープ(女性人形のおもちゃ)の別れのシーンはこの映画のストーリーやテーマに大きく関わってきます。

そして、この作品での最も重要な部分がウッディの考え方の変化(=成長)です。ウッディは今まで、自分がアンディの一番のお気に入りであったこともあり、アンディ(=持ち主)のためにとことん尽くしてきました。それがおもちゃである自分の使命だと感じていたし、またアンディにも自分が絶対に必要だと心の底から信じていました。しかし今回、新しい持ち主であるボニーにとって、ウッディはお気に入りのおもちゃではありません。他のおもちゃたちがボニーと遊ぶ中、ウッディはクローゼットの中に置いてけぼりです。それでもボニーの幸せのためには自分が必要だと信じて疑わず、ボニーのために頑張っていましたが、ボー・ピープとの再会を通して、徐々に自分が頑張っているのは、本当は「ボニーのため」ではなく「自分のため」だったのではないかと思い始めます。自分自身の存在価値を否定したくないがために、必死に頑張っていたのではないか。そして、ウッディが最後に下した決断とは・・・、といったところです。私は最後は号泣でした。

また、全体を通して映像は本当に綺麗で、最初のシーンは実写のシーンと見間違えるほどリアルですし、途中で登場するアンティークショップの描写も素晴らしいです。背景だけでなく、ウッディやボー・ピープなどのおもちゃの表情がとても豊かでセリフなしでも感情が十分伝わってくるほどです。これは特にシリーズ当初の作品と見比べると、ここ20年程での技術の進歩を大きく感じることが出来ます。人間の表情も同様です。

さらに、ピクサー作品ではお馴染みの細かい遊び心に溢れたシーンを今作でも楽しむことが出来ます。過去のピクサー作品のキャラクターがちょっと搭乗していたり、過去の名作映画のオマージュシーンがあったりもします。

 

『トイ・ストーリー4』のメッセージ

これは『トイ・ストーリー』シリーズ全体のテーマでもあり、私たちの人生の様々な場面につながることだと思いますが、「自分が必要とされていること=自分の使命」であるということだと思います。監督自身も、この映画で描いているのは「人生の岐路」だと語っています。なので、今作を通してウッディは「自分を本当に必要としているのは誰なのか?」「自分が本当にすべきことは何なのか?」を悩むわけです。

個人的には、塾講師という仕事は奇しくもウッディたちと同じく子どもたちに何かを与える仕事なので、より一層このシリーズの持つメッセージやテーマについて普段の出来事や実感も相まってとても考えさせられます。

そして、今回からの新キャラクターであるフォーキーからは、「自分の使命に出身は関係ない」「価値観は人によって大きく異なる」ことがわかります。フォーキーはゴミ箱の中から集められたゴミでできたおもちゃです。しかし、ボニーにとっては他のどんなおもちゃらしいおもちゃよりもフォーキーが一番お気に入りのおもちゃなのです。

さらにピクサー作品だと『カールじいさんの空飛ぶ家』にも通じる、「過去にとらわれていては今を生きることができない。前に進むためには、何かを失わなければならない。」といったメッセージも感じました。

 

日米で割れる評価

鑑賞後に今作の評判をインターネットで調べてみたら、面白いことに、日本とアメリカで大きく評価が分かれていました。アメリカの大手のレビューサイト「Rotten Tomato」では観客の満足度は94%、評論家や新聞紙上での支持率(評価)は98%という圧倒的な高さを誇っています。一方で、この記事を書いている時点での日本のYahoo映画での観客の評価は5点満点中で3.3点です。まだ公開初日なので何とも言えませんが、前作の『トイ・ストーリー3』の評価が4.5点ということを考えると、現時点でかなり評価が低いことがわかります。

そして低評価の人のレビューを見ていると、「今までのシリーズを否定しているようで嫌だ」という評価がほとんどです。それは映画のラストに不満を持っているということでしょう。それはウッディの考えの変化を成長ととらえるのか、裏切りととらえるのか、だと思います。特に初日から観に行っているということは、シリーズのファンである可能性が高いので、このウッディの考えの変化を自分が好きだった過去作を否定されたととらえた人が多いのかもしれません。このようなレビューサイトの評価によっては私のこの作品に対する考えや評価が変わることはないのですが、今後も今作の評判の動向はチェックしたいと思います。

ということで、『トイ・ストーリー4』は、個人的に超オススメです。

今回はこんな感じで!また更新します!

 

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小学生におすすめの本を紹介!教科書の名作をもう一度。

こんばんは。フォルテの文系講師の上村です。

今日は、フォルテ内の貸し出し用の本として最近手に入れた本を紹介します。

今回紹介する本について

今回、紹介する本は『光村ライブラリー15』です。

・・・と言っても何のことやらですね。えっ?15!?って感じだと思います。これは、多くの自治体で英語や国語の教科書が採択されている教科書会社の光村図書が刊行しているシリーズ物(全18巻)です。このシリーズでは、過去に光村図書の教科書に掲載された様々なの作品群が対象の学年(低学年・中学年・高学年)ごとに分けられてパッケージングされています。今回の15は高学年向けの作品集です。

教科書に載っていた作品なので、一つ一つが比較的短く読みやすいです。読書感想文の題材としても良いのではないでしょうか。

 

収録作品の紹介

今回紹介する『光村ライブラリー15』は高学年向けの作品が5本収録されています。

その5本とは、
『その日が来る』(森忠明)
『赤い実はじけた』(名木田恵子)
『ガラスの小びん』(阿久悠)
『どろんこ祭り』(今江祥智)
『との様の茶碗』(小川未明)
です。

 

おすすめ作品

私個人の子どものころの体験としては、今回の収録作品の中では『赤い実はじけた』が印象的ですが、私がここで最もおすすめしたいのは『ガラスの小びん』です。作者は作詞家としても有名な阿久悠さんです。この作品自体は教科書収録用に書き下ろされたもので、この作品を一般的に読むことが出来るのはこの『光村ライブラリー15』のみです。

<あらすじ>
主人公の少年の父は、甲子園に出場した経験を持つ元高校球児。ガラスの小びんに入っている、そのときに持ち帰った「甲子園の土」は父にとって特別なもので、当時から数十年たった今でも「甲子園の土」は父に自信を呼び起こさせたり、力を与えたりします。それだけでなく、その「甲子園の土」は他人にもご利益があると父は思っており、息子である少年がテストの前には、小びんから一つまみとった土を息子の頭や肩にかけることもありほどです。その恩着せがましさに対して、心の中で反発していた少年は、ある日父から叱られたときの怒りにまかせて小びんの中の土を捨ててしまい・・・。

この作品は、「宝物とは、他人にとっては価値がないものでも、自分にとってはかけがえのないものである。」という価値観についての話で、「わたし(=少年」」は果たして宝物を見つけることができるのだろうか、というのがメインのテーマです。

そして、「わたし(=少年)」の物語であると同時に、父親の物語でもあると私は思うのです。作品内で描かれてはいませんが、息子の一時の感情に任せた軽率な行動によって、思いがけず宝物を失ってしまった父親。果たしてそんな父親は不幸だったのでしょうか。私はそうは思いません。むしろ、過去の栄光という「呪い」から解放されて、今まで以上に「現在」を力強く生きる父親の姿が思い浮かびます。このように、「人間は今よりも前に進むためには時として何かを失わなければならない」というメッセージも感じた作品でした。

ちなみに阿久悠さんのお父さんは、実際に甲子園出場経験のある元高校球児らしく、この作品自体が阿久悠さんの半自伝的な内容になっています。私がこの作品を知ったのは、この仕事を始めてからで、とある教材会社の国語の文章問題に使われていたことがきっかけでした。この作品に限らず、国語の文章問題で出会った作品をあとで単行本や文庫本で手に入れて読み直すことは非常に多く、私にとって国語の文章問題を解くことは、良い文学作品と出会うきっかけにもなっています。

そして、たいていの場合、国語の文章問題で使用されているのは該当作品のほんの一場面なので、作品全体を通して改めて読むことで主人公や文章自体に対する印象が大きく変わることも珍しくありません。

最近では、何気なく手に取った文庫本に、同じく国語の文章問題で知った『さかあがりの神様』(重松清)が収録されていたので、読み返してみましたが、やはり作品全体を通して読むことで大きく印象が(良い意味で)変わり、大好きな作品となりました。

 

(おまけ)作詞家・阿久悠とは

『ガラスの小びん』の作者である阿久悠さん(1937~2007年)は、前述のとおり、作詞家として数々のヒット作を世の送り出したことで有名な方です。とくに有名なのは、ピンクレディー「サウスポー」「UFO」・石川さゆり「津軽海峡冬景色」・沢田研二「勝手にしやがれ」などです。また、アニメ作品の主題歌や童謡も多く手がけており、「さらば~地球よ~♪」でおなじみの宇宙観戦艦ヤマトの主題歌も阿久悠さんが作詞した作品です。

しかも、作詞家として日本歴代で2位のシングル売り上げを記録しています(ちなみに1位はAKB48などの楽曲でおなじみの秋元康さんです)。

日本人なら誰もが阿久悠さんの作詞した楽曲を一度は聞いたことがあるでしょう。それくらい多くの人々の心に響く言葉を紡ぐ名作詞家だからこそ、同じように人の心に残るような文学作品を書けたのでしょうね。納得です。

今日はこんな感じです。ではまた!

人生を豊かにする芸術作品③映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

第三弾となる今回は、映画『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』です。これまでに紹介した2作に比べると、名前すら聞いたことがないという方が多いでしょう。しかし、前2作に負けず劣らずの名作です。ジャンルで言うと、ヒューマンドラマとかハートフルコメディですね。あとは主人公一行が旅をしていくロードムービーになります。

<参考記事>
第一弾:映画『ドリーム』(ココをクリック)
第二弾:映画『ズートピア』(ココをクリック)

 

あらすじ(公式HPより引用)

ロサンゼルスにある一流レストランの<総料理長>カール・キャスパーは、メニューにあれこれと口出しするオーナーと対立し、突然店を辞めてしまう。次の仕事を探さなければならない時にマイアミに行った彼は、絶品のキューバサンドイッチと出逢う。その美味しさで人々に喜んでもらう為に、移動販売を始めることに。譲り受けたボロボロのフードトラックを改装し、マイアミ~ニュー・オリンズ~オースティン~ロサンゼルスまで究極のキューバサンドイッチを作り、売る旅がスタートした―。

 

『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』の見どころ

まず全体を通して言うと、フードトラックでの旅を通して、物理的にも心情的にも離れてしまった子どもとの仲を取り戻す親子愛、主人公カールと元の店での部下(これが本当に良い奴!)との師弟愛、旅する男同士の素敵な友情など、ちょっぴり感動する要素がいくつもあり、間違いなく万人がおすすめできる傑作です。

この映画の大きなテーマは「仕事観」です。主人公カールは、店のオーナーにあれこれと口出しをされて、自分が本来作りたくないメニューを作らされて高い報酬を得るよりも、収入は不安定ながらも本当に自分が作りたい料理で食べた人を喜ばせるために、働いていたレストランを辞めて、フードトラック(=日本で言うと屋台?)で再スタートします。「安定・収入」よりも「やりがい」を選んだわけです。この選択は、かなり勇気がいることです。

この映画を私は公開当時に劇場で鑑賞して気に入って、Blu-rayも購入して何度も鑑賞しているのですが、今回紹介するにあたって再度観直しました(計5回目くらい?)。しかし、今回見直したことで、今までに観たときにはなかった感慨深さがありました。それは私自身が今年の2月に大手塾を辞めて、3月から自分の小さい塾で再スタートを切ったため、主人公カールを私自身と重ね合わせることが出来たのです。そういう意味で、私にとってより大切な作品となりました。同じように個人で会社を何か仕事をやっている方には心に響くものがあると思います。

次にSNS(主にTwitterやYouTube)に関する描写が印象的です。今作ではカール自身の不用意なツイートや店の客のが撮影したカールの不適切な行為が本人の知らないうちに拡散してしまい、周囲はその対応に追われ、カール本人の名誉は著しく傷ついてしまいます。しかし、その一方でカールの息子のツイートによって、カールのフードトラックに興味を持った人々が集まり、行列をなすようになります。このようにSNSの良い面と悪い面、「要は使い方次第である」というのが示されていることは、いかにも現代っぽいと言えるでしょう。

他にも主人公を演じるジョン・ファヴローがプロの料理人に弟子入りして学んだだけあり、料理のシーンも本格的なおかつテンポが良く撮影されています。そして、何より映画内で登場する料理がすべておいしそうです。特に、フードトラックで売り歩くキューバ風のサンドイッチは思わず食べたくなります。キューバ料理の店が日本にはあまりないのが残念でならないです。

 

監督、ジョン・ファブローという男

この映画の監督兼主演はジョン・ファヴローという人です。名前を聞いてピンとくるのは、映画好きだけでしょうが、この映画は彼のことを知っているとより感動的です。

ジョン・ファヴローの名が世界中に広まったのは、言わずと知れた人気シリーズ『アイアンマン』(2008年)の監督を務め、世界的大ヒットを飛ばしたことがきっかけでしょう。この『アイアンマン』のヒットから、大手アメコミ出版社のマーベル・コミックが仕掛ける同じ世界観の作品たち、いわゆる「マーベル・シマティック・ユニバース」シリーズが始まりました。『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ』『インクレディブル・ハルク』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などの作品がマーベルの作品です。あと、日本でもマーベル(MARVEL)の文房具やカバン、洋服などのアパレル用品が一般的になっていますよね。それも『アイアンマン』の大ヒットがなければ、このようなグッズの展開もなかったでしょう。ちなみに今作にも『アイアンマン』の主演俳優のロバート・ダウニー・Jr.が出演しています。

そのジョン・ファヴローですが、その後も『アイアンマン2』(2010年)の監督を務め、1作目を超える大ヒットを収めます。映画監督としてステップアップしたところでしたが、その直後に監督した大規模映画(100億円以上の予算をかけた映画)『カウボーイ&エイリアン』(2011年)が大不評で、なおかつ周囲の期待するようなヒットとはなりませんでした。恐らくジョン・ファヴロー自身もこの映画については不本意な出来だったんでしょう。次の監督作として決まっていた、同じく大規模映画『アイアンマン3』の監督を降板します。

そして、結局次に監督したのが今作『シェフ~三ツ星フードトラック始めました~』です。この映画は前述の『アイアンマン』シリーズや『カウボーイ&エイリアン』などと比べると、およそ10分の1ほどの予算でつくられた小規模映画です。この映画はアメリカで最初、全米でわずか6館のみでの公開でしたが(ちなみに『アイアンマン2』の公開館数は4380館でした。)、評判が評判を呼び、徐々に公開館数が増えていき、全米で大ヒットを記録しました。そこでジョン・ファヴローは、一度急落した自身の映画監督としての評価を完全に取り戻したのでした。

そうです。今作でジョン・ファヴローが演じた、店のオーナーにあれこれ口出しされて自分の思い通りの料理が作れない主人公カールは、大手の映画会社の偉い人たちにあれこれ口出しをされて自分の思い通りの映画が作れなかったジョン・フォヴロー自身の投影なのです。主人公がフードトラックで再出発するのも、小規模映画(=今作『シェフ』~三ツ星フードトラック始めました~)で再出発した自分自身の投影です。実際にこの映画を作る際にジョン・ファヴローが一番気にしたのが、「映画の内容の最終決定権を自分が握る」ことだったようです。そこからも、今作が本当にジョン・ファヴローが作りたかった作品であることがわかります。ちなみにジョン・ファヴローは『アイアンマン3』の監督オファーを受けていましたが、それを断って今作を制作しました。『アイアンマン3』の監督としてのギャラは10億円と言われていました。「お金」ではなく、「やりがい」で仕事を選んだんですね。これも主人公カールに大いに反映されています。

今作の成功で評価を回復したジョン・ファヴローは、ディズニー映画『ジャングル・ブック』(2016年)の実写版で監督を務めて、世界的大ヒットを記録しました。そして今年の夏には最新作として、同じくディズニー映画『ライオン・キング』の実写版が公開される予定です。こちらも楽しみですね。

 

最後に

この映画、全編を通して流れる小気味よいラテン音楽(定番曲のバンドカバーの曲群)も相まって、多幸感にあふれています。それでいて、前述の通り、ストーリーは綺麗で変な刺激の強さがなくホロリと感動できる名作です。心が洗われます。

あとは主人公たちが車でアメリカを横断しながら、各地の名産を料理に取り入れていく描写や各地の特色についての登場人物同士の会話を通して、アメリカの地理や歴史の勉強にもなり、子どもから大人まで楽しめる何度も見返したくなる作品です。

ということで、こちらの作品もフォルテにBlu-rayを置きます。気になる方は是非~。

それでは、また。

 

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人生を豊かにする芸術作品②映画『ズートピア』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

このシリーズでは、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

そして前回の映画『ドリーム』(2016年)に続いて、第二弾として紹介するのはディズニー映画『ズートピア』(2016年)です。これは深くて心底面白い映画です。

あらすじ(公式HPより引用)

故郷の田舎町から憧れのズートピアにやってきたウサギのジュディ。彼女の夢は、「立派な警察官になって世界をよりよくする」こと。でも警察官になれるのは、サイやカバなどタフな動物だけ…けれどジュディは、現実の壁に立ち向かいながらも夢をあきらめず、見事“ウサギ初!”の警察官に!しかし、サイやゾウなどの同僚たちが動物たちの連続行方不明事件の捜査に向かう中、ジュディに与えられた任務は駐車違反の取り締まりだった。能力を認めようとしないスイギュウのボゴ署長に憤慨したジュディは、驚異的な仕事ぶりを見せる。

ある日、街で困っているキツネの親子を助けたジュディだが、実は彼らは夢を信じない詐欺師のニック達であった。そんなニックに対して、騙されていたことへ腹を立てながらもジュディはあきらめない。カワウソのオッタートンの行方不明事件が未捜査だと知ると、「私が探します。」と宣言する。ヒツジのベルウェザー副市長の後押しもあり、ボゴ署長はしぶしぶ認めるも、与えられた時間はたった48時間。失敗したらクビで、彼女の夢も消えてしまう…。手がかりがほとんどなく、唯一の頼みの綱は事件の手がかりを握る詐欺師のキツネ、ニックだけ。最も相棒にふさわしくない二人は、互いにダマしダマされながら聞き込み調査を続け、有力情報をたよりにツンドラ・タウンの一台の車にたどり着く。その車内には、行方不明のオッタートンの痕跡が!だが、その車はなんとツンドラ・タウンの闇のボス、ミスター・ビッグの車だった。ジュディとニックは手下に捕らわれるも、なんとか危機を逃れる。しかし、危機を乗り越えた二人を待っていたのは、ズートピアで何かが起こっていることを予感させる衝撃の光景だった!

ボゴたちが到着した時には、その証拠は消えジュディの言葉は誰にも信じてもらえない。しかも、大きな成果を得られないまま約束の48時間まで残り10時間――ついにジュディはボゴから「クビ」を宣告されてしまう。夢を失う危機に落ち込むジュディを救ったのは、ニックの意外な一言だった…。果たして、ジュディの夢を信じる心は楽園の秘密を解き、世界を変えることができるのか?

 

『ズートピア』の見どころ

この映画で扱っているテーマは、前回の『ドリーム』と同じく「差別」と「偏見」です。それでも、これまた前回の『ドリーム』同様、扱っているテーマが重いにもかかわらず、映画自体に暗さを出さずにディズニーが対象とする観客(小さい子どもから大人まで)がエンターテイメントとして十分に楽しめるような工夫がこれでもかというほど盛り込まれている傑作です。むしろ、そういう工夫が本当に緻密なので、小さい子どもはこの「差別」と「偏見」というテーマには気付かずに純粋に楽しめます。そして、数年後にふと思い返したり、映画を観返したりしたときに「あれ、『ズートピア』って意外と深い映画なんじゃない?」と気付くでしょう。行方不明となった動物たちの謎を追っていくサスペンス映画の側面、ジュディとニックの友情の育みを描く相棒映画(バディムービー)の側面、犯人追跡や列車をメインとしたアクション映画の側面などが純粋に楽しめる大きな要素です。その他の見どころもたくさんあるのでネタバレしないように紹介します。

まずはストーリーの素晴らしさ。この映画のストーリーで最も素晴らしい点は、主人公であるウサギのジュディをただの弱者(差別や偏見の被害者)として描かなかったことです。ウサギのジュディは子どもの頃から「ウサギに警察官は無理」と言われて自分の夢をキツネや実の両親から否定されたり、念願の警察官となって出勤しても大した仕事を任されなかったりします。普通の映画であれば、その逆境に負けずに、ジュディが努力や工夫で様々な困難や壁を乗り越えていって、周囲もジュディを認めるようになって大団円、という感じなると思うのです。しかし、この映画ではそのジュディの中にも実は他の動物に対して偏見があります。そう、つまり「誰の中にも差別意識や偏見は存在する」ということです。その差別意識や偏見に気づいたときにどう向き合うのか、そしてジュディはどう成長するのか、というのが大きなテーマであり、見どころの一つです。あとはお手本ともいえる伏線の回収も見事です。伏線の回収とは、映画の前半で登場したアイテムやセリフが後半のクライマックスで活かされるということです。良い映画や小説はたいてい伏線の張り方が上手いものです。こういう良い構造の作品に触れることで、自分自身の表現技術(作文とか)にそれらを活かすことが出来るので、子どもたちには良い映画や小説にたくさん触れてほしいと思います。

次に純粋な映像的な楽しさです。動物たちの住む街・ズートピアの世界観は見ているだけでわくわくします。これは予告編の時点でも心躍りました。その根本にあるのは動物たちのリアルなサイズ感の描写です。これは今までの動物を擬人化した作品(ディズニー作品や非ディズニー作品問わず。)とは明らかに違う点で、それぞれの動物のサイズ感(動物同士のサイズ比)がとてもリアルなのです。キリンやゾウは本当に大きく描かれ、ウサギやネズミは本当に小さく描かれています。そしてだからこそ、列車のドアが大きい動物用と小さい動物用に分かれていたり、他の動物からそれぞれの動物を見たときの視点が描かれていたりと、面白い描写が盛りだくさんです。しかもそれぞれの動物の動きや表情がそれぞれ特徴的で、映画を何度も見返して確認したくなります。1度目は全体を楽しんで、2度目以降は「次は動物の歩き方、走り方に注目しよう!」「次は細かい背景に注目しよう!」と言った具合に何度も楽しめます。

あとは映画内のあちこちに散りばめられた動物ギャグや過去の映画のパロディ・オマージュの数々です。これは大人ほど楽しめるかも知れません。個人的にオススメは免許センターで働くナマケモノのギャグと『アナと雪の女王』『ゴッドファーザー』のオマージュです。この感じは近年のディズニー映画ではわりとある方なのですが、それらの中でも『ズートピア』は群を抜いて攻めています。マフィア映画の『ゴッドファーザー』のオマージュは、元の映画を知っていなくでも楽しめるギャグであり、それでいてストーリー的にも重要なシーンでもあります。

 

『ズートピア』に込められたメッセージ

近年のディズニー映画は、ストーリー(脚本)が秀逸で、なおかつ作品に込められたメッセージが本当に良いのです。この秘密については、後で触れています。

さて、この映画に込められたメッセージですが、

「誰の中にも差別意識や偏見はあるもの。ただ、それは自分と向き合い、様々な経験を経ることで、変えることができる。」「自分と他者の違いを認め、お互いに尊重し合うことで、個人はもとより世界全体がより豊かになる。」

ということでしょう。これって私たちの住む現実社会でも全く同じですよね。そして、一人ひとりのそういう意識や態度、行動が社会を、世界を変えていくということでしょう。

 

名作を連発する近年のディズニーアニメの秘密

ここからは余談です。近年、正確には2008年作品の『ボルト』という作品以降、ディズニー制作のアニメ映画はそのクオリティが圧倒的に高くなっています。それ以前は、過去の名作のテキトーな続編を乱発し、さらにそれらのクオリティが軒並み酷すぎるという状態で、完全に低迷していて、一時期はディズニーアニメスタジオが閉鎖直前までいっていました。しかし、『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』などの鬼クオリティの作品で有名なピクサーのトップ、ジョン・ラセターという天才アニメーターが2006年にディズニーアニメスタジオのトップに就任しました。そして、それまでの低レベルの作品の生産体制を一新し、ほぼ外れ作品のないピクサーと同じ方式で作品を作ることになります。その一発目が2008年の『ボルト』なのです。

さて、ピクサーの作品生産の方式とは?それは「ブレイントラスト」と呼ばれる会議によるストーリー(脚本)をブラッシュアップ作業です。「ブレイントラスト」とは、その作品の監督、プロデューサーだけでなく、今までに名作を数多く手がけてきた映画監督やスタッフが多数参加し、客観的に作品(試作段階)を評価し、遠慮をせずに意見を言い合う会議です。言うならば、天才がたくさん集まって意見を交換し合って、より良いストーリー(脚本)を作り上げるのです。さらに、アニメとしてのクオリティを上げるために実際に描く対象を徹底的にリサーチするのもピクサーと同じ方式です。今回のズートピアに際しても、制作陣は実際にアフリカに野生の動物を観に行ったり、動物園で飼育係の人に動物の特徴を聞いたりと、時間と手間をかけて行っており、それが作品中の登場動物の細かい動きや表情に大いに反映されています。

この方式を取り入れてからのディズニーアニメスタジオ制作の映画はピクサー並みにクオリティが高い作品ばかりです。有名なところだと『アナと雪の女王』『ベイマックス』『シュガーラッシュ』『塔の上のラプンツェル』などですね。どれも、ストーリーとメッセージが抜群に良い作品ばかりです。今後、またこれらのディズニー作品はここで取り上げたいと思います。

 

最後に

ということで、この『ズートピア』はアニメ作品として大傑作です。ほぼ非の打ちどころがないです。むしろアニメだからこそ、人間の現実社会を投影しつつ(このような手法をメタファーと言います。)、きっちり万人が楽しめる作品になっています。是非、楽しんでください。こちらもフォルテにはDVD/Blu-rayを置いておくので、観たいフォルテ生は上村まで声をかけてください。

今回はここまで。それでは、また。

人生を豊かにする芸術作品①映画『ドリーム』

こんばんは。フォルテの文系担当の上村です。

今回は新シリーズで、全小中学生にオススメの映画や小説などを紹介していきます。このシリーズで紹介するのは、私の考える「良い芸術作品」です。

ここでいう「良い芸術作品」とは、その作品に触れることで私たちが「何かしら成長できる」「何かを考えるきっかけを得られる」「何かしらを学べる」「モチベーションが高まる」作品を指しています。

優れた芸術作品(小説でも音楽でも絵画…etc)に触れることで私たちの人生は豊かになります。ここで紹介する良い芸術作品に触れることで少しでも子どもたちの人生が豊かになってくれればと思っています。

そして今回記念すべき第一弾として紹介するのは映画『ドリーム』(2016年)です。これ、本当に超絶オススメですよ!

あらすじ(公式HPより引用)

1961年、アメリカはソ連との熾烈な宇宙開発競争を繰り広げていた。NASAのラングレー研究所には、ロケットの打ち上げに欠かせない“計算”を行う優秀な黒人女性たちのグループがあった。そのひとり、天才的な数学者キャサリンは宇宙特別研究本部のメンバーに配属されるが、そこは白人男性ばかりの職場で劣悪な環境だった。仲の良い同僚で、管理職への昇進を願うドロシー、エンジニアを目指すメアリーも、理不尽な障害にキャリアアップを阻まれていた。それでも仕事と家庭を両立させ夢を追い続けた3人は、国家的な一大プロジェクトに貢献するため自らの手で新たな扉を開いていくのだった……。

 

前提となる知識(時代背景)

小中学生がこの映画を観る上で、事前に知っておいた方が良いことをいくつか紹介しますね。

冷戦

この映画の舞台となっている1961年は、アメリカを中心とする資本主義国家とソ連(現在のロシアを中心とする国々による連邦国家)を中心とする社会主義国家が対立していました。とはいえ、アメリカとソ連は、直接的な戦火を交えた対立ではありませんでした。このような対立を冷戦と呼びます。冷戦は第二次世界大戦の終戦直後(1945年)からソ連解体(1991年)まで続きました。この対立の中で、アメリカとソ連の間では激しい宇宙開発競争が展開されていたのです。ちなみに、この宇宙開発の技術は兵器開発にもつながるので、両国はただの宇宙へのロマンを求めていたのではなく、国家の存亡をかけて宇宙開発競争をしていたのでした。

 

2つの差別問題

この映画における一つのテーマは差別で、「女性差別」と「黒人に対する人種差別」の2つがありました。当時、女性は男性に比べ社会的地位が今とは比べ物にならないほど低かったのです。そしてアメリカの多くを占めていた白人に対して、少数派である黒人は歴史的背景もあって自由や権利がかなり制限されていたのです。この映画でも描かれていますが、仕事場、図書館、バスの座席、トイレすら白人用と黒人用で分かれていたほどです。特に今回のNASAの施設(ラングレー研究所)があるバージニア州はアメリカの南部に位置し、黒人差別が酷い地域でした。

 

マーキュリー計画

この映画の舞台となる時期は、直前にソ連が人類初の宇宙飛行に成功しており、先を越されてしまったアメリカは国家を挙げて、早急に有人宇宙飛行を成功させる必要がありました。ちなみにこの時にソ連で宇宙飛行に成功したのが「地球は青かった」という言葉で有名なガガーリンという宇宙飛行士です。そこで、アメリカは地球の周りをまわる軌道上に宇宙飛行士を送り、安全に地球に帰還させる有人宇宙飛行計画を発表します。それが「マーキュリー計画」です。その計画に計算係として動員されたのが今回の主人公たちです。ちなみに同じようにこのマーキュリー計画を、宇宙飛行士に焦点を当てて描いた『ライトスタッフ』(1983年)という映画もあり、こちらも良い映画です。

 

『ドリーム』の注目すべきポイント

この映画を観て、まず驚くのが1960年代にスペースシャトルの発射や着水の軌道の計算を人の手(しかも多くの黒人女性が登用されていた!)でやっていたということです。この計算をする人のことを「コンピューター(computer)」と呼んでいました。computeというのが「計算する」という意味の単語ですから、「計算する人」って意味ですね(YouTubeとYouTuberみたいな関係ですね)。そうです、今ではコンピューターといえば、パソコンとかの「機械(コンピューターマシーン)」を指しますが、元々は「人」を指す言葉だったんですね。劇中に登場する最新のコンピューター(IBM)が本格的に導入されることによって、コンピューターによる計算が中心になっていきます。

この映画の魅力の一つは、登場人物たちの変化・成長です。最初は主人公たちのことを「黒人」「女」として見下していたような態度をとっていたNASAの職員たちは、彼女たちの仕事ぶりや資質を間近で目にするうちに段々と彼女たちのことを認めるようになっていき、彼女たちへの態度にも変化が生まれます。その最たるものが、この映画の最後のシーン。ほんの何気ない日常の動作なのですが、そこまでのストーリーを思い返すと涙が出るほど素晴らしいシーンです。同じように主人公の家族ですら、差別とまではいかなくても「女性」に対する偏見があったことが描かれています。「そういう仕事は女性の君がすべきではない」「女性なんだからそんな仕事に就くのは無理だよ」とかです。しかも、それを言う人に決して悪気はないのです。つまり、差別や偏見は無意識のうちにもその人に根付いていることがあるということです。ただ、その家族の変化・成長が描かれていて、これまたとても感動的です。

一方でNASA職員の中にも、肌の色や性別に拘わらず彼女たちの能力をしっかりと評価して重要な仕事を任せるプロジェクトのリーダーや中間管理職もいます。そして、人種・性別・経歴を超えて皆がチームとなって難題に取り組むことで、素晴らしい成果を上げることができるのです。これは監督自身もテーマの一つだと語っており、主人公の3名の女性たちは常に「チーム」を強調しています。この主人公の女性たちは実在の人物が完全にモデルになっているのですが、その中で唯一ご存命のキャサリン・ゴーブル・ジョンソンさん(なんと現在100歳!)もインタビューの際に「あなたの功績は素晴らしいですね。」と言われたのに対して、「私はあくまでメンバーの一員です。みんなで成し遂げたのです。」というスタンスの発言をしていたと映画のパンフレットに載っていました。また、劇中でもドロシーがキャサリンとメアリーが順調にステップアップする中、自分だけ前進できていない状況を2人に愚痴りますが、その時にも「でも、勘違いしないで。二人の前進は、私たちチームの前進よ。」と言っています。

さらにこの映画の優れている点は、「反復法」の素晴らしさです。一般的には国語の文章の表現技法ですが、この映画内では特定の行動が劇中で何度も繰り返されます。それが主人公の過去と現在のつながりを示していたり、同じ行動の中にある小さな変化が登場人物の変化・成長を表していたりするのです。これは映画ならではの素晴らしい映像表現です。これらを変に登場人物が下手なセリフで言ってしまったり、小説で何の工夫もなく文字に起こしてしまったりすると野暮ったくなって台無しです。。

最後にこの映画をより高いレベルに昇華しているのが、ファレル・ウィリアムスによる音楽です。映画全体に配された、映画の舞台となる60年代風のソウルミュージックの数々は日本語で端的に表すと「ごきげん」です。差別をテーマにしておきながら、映画自体が暗くならずにポジティブな雰囲気で進み、観終わった後に爽快感が残るのは、間違いなくこの音楽の効果に他なりません。

 

映画のタイトルに関して

この映画、原題(アメリカでの正式タイトル)は『Hidden Figures』です。hidden(ヒドゥン)は「隠れた、隠された」という意味で、figure(フィギュア)は「姿」「数字」「計算」などの意味があります。つまり、このタイトルは主人公の3名の女性たち自身のことであり、主人公が計算したマーキュリー計画における軌道計算のことを指しているんですね。上手いタイトルです。実際に「マーキュリー計画の裏には、黒人女性たちの活躍があった」という事実はこの映画の原作となる本が出版されるまで一般人はおろか、現在NASAで働く職員にも知られていなかった話だそうです。

ちなみに、邦題は当初、『ドリーム ~私たちのアポロ計画~』というタイトルでした。アポロ計画とはご存知の通り、月面着陸を目指したアメリカの宇宙計画のなので、今回のマーキュリー計画とは別物です。なので、流石に多方面から批判が殺到し、この副題は削除され『ドリーム』の邦題で公開されました。確かに多くの日本人が宇宙開発と聞いて真っ先に思い浮かぶのがアポロ計画でしょうから、気持ちはわからなくはないですけどね。

ただ、この『ドリーム』というタイトルも個人的にはどうかなと思います。というのも、この映画の大事なところは、「主人公たちが思い描いた大きな夢を実現する」というよりは、「主人公たちの持っている能力や資質に対して正当な評価を得る」物語なので。当時、「アメリカが有人宇宙飛行を成功させる」というのも国民の「夢」というよりは、国家の威信をかけた「政策」でしたので、やはり原題に沿った気の利いた邦題が付けられていれば良かったのにな、と思います。

 

最後に

とはいえ、もちろんイケてない邦題と映画自体のクオリティは全く無関係です。この映画は控えめに言っても、名作中の名作です。何なら、道徳の時間にでも全小中学校で上映して子どもたちに見せるべき作品です。子どもから大人までほぼ確実に楽しめる本当に良い作品なので、今回第一弾として取り上げました。

人種や性別の壁にぶつかっても、自分の力や可能性を信じて、必死にもがくことで乗り越えようとする主人公たちの姿を見ていると、誰しもが胸に熱いものを感じるでしょう。そして、今後同じように自分が壁にぶつかっても、必死にもがいて乗り越えてやろうという気持ちになれるはずです。またこのような差別を扱った作品を通して、歴史を知り、人の気持ちや痛みを想像することが出来るようにもなれると思いいます。

フォルテでは本作のDVDを教室に置くので、もしフォルテ生で「観てみたいなぁ。」という人がいたら上村に声をかけてくださいね。いつでもお貸ししますよ♪(上村自身は個人的にブルーレイを持っているので、ブルーレイ希望の場合も対応しますー。)